2023年の映画をふりかえる

子の入学&転園、資格試験、愛犬や友人の死、推しのソロ活&入隊…全部今年だったんだなぁ……。さすがに子の夏休み越えての9月は疲れがどっと出たのかばたばたと倒れ、以後サボりまくりながら年末に突入しました。今年前半の自分は過去一がんばっていたかもしれない。元来がんばれない人間なのに。
映画は個人的には大豊作の年で、ベスト10を選ぶのにかなり迷いました。巨匠たちごめん!


では、今年もベスト10まで以下列記。


1.エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス



2.エンパイア・オブ・ライト



3.スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース



4.aftersun/アフターサン



5.別れる決心



6.アステロイド・シティ



7.SHE SAID/シー・セッド その名を暴け



8.ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り



9.ジョン・ウィック コンセクエンス



10.モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン



ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEは2観てから入れるね!


『フェイブルマンズ』『君たちはどう生きるか』が入らないなんて!
これはひとえに自分の精神状態に依るところが大きいと思う。『エブエブ』は整った映画とは言えないけれど、やはり突破力がすごかった。ミシェル・ヨーのほほえみとキー・ホイ・クァンの"Be Kind."を思い出してがんばれた瞬間が何度もあった。『aftersun』は友人の死と共にどうしても忘れられない映画になってしまった。『アステロイド・シティ』は例年だったらこんなに刺さらなかったかもしれないけれど、自分が抱えている馴染めなさを突かれて慰められたような気がした。ちなみに年末恒例のいつメンとのシネマランキング会では、総合点で『エンパイア・オブ・ライト』が圧勝だったのだけれど、映画好きならではの納得の結果だなぁとうれしくなりました。


いちばんよかったなと思う役者さんは、やはり日本が誇る役所広司でしょうか。そらカンヌ最優秀男優賞獲るわ!圧巻のラストシーンのためだけでも観る価値がある。長回しでの複雑な表情の変化は映画に深みを与えまくっていた。


あと、エズラなー(ギャラ2倍あげて!でおなじみ)。何とか今後もがんばってほしいです!


あとは、『フェイブルマンズ』コンビもすごかったなぁ!と思います。この二人じゃなきゃ、という重い役だったと思う。


さらに、『TAR』のケイト様の洒落っぷり、ドニー・イェンの踊るようなアクション。DVD買って永遠に眺めていたい……。


来年はもうちょっと肩の力をゆるめて、自分のことにも手を回せたらなぁと思います。そしてBE KIND! BE KIND! BE KIND!

PERFECT DAYS


こんなふうに生きていけたなら

監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース
脚本:高崎卓馬
撮影:フランツ・ラスティグ
編集:トニ・フロシュハマー
インスタレーション:ドナータ・ヴェンダース
美術:桑島十和子
スタイリング:伊賀大介
ヘアメイク:勇見勝彦


とてもしずかで小津へのラブレターのようなうつくしい映画だった。事前に想像していたように『パターソン』のような、「くり返しに見えて新しくかけがえのない日々への礼賛」といった要素もあったし、青みがかったトーンの撮影やカセットテープから流れる選曲もすばらしかった。あて書きされた役所広司は完璧だったし、他の田中泯柴田元幸といったキャスティングも洗練されていた。


自分の好きな要素がたくさん詰まっていて、だからこそ観に行ったのだけれど、ただわたしにはどうしても作り手たちの意図のままにこの映画を味わうことはできなかったし、良くも悪くも作り手たちの知的/文化的/金銭的裕福さ*1を感じずにはいられなかった。

主人公・平山は「足るを知る」ひとだ。みんながこんな風に生きていけたらいいのにね、というすてきな世界の提示がされている。その生活を見ていてたしかに癒されるしあこがれるのだけれど、その完結した輪の外のことを考えるとちょっとヒヤリとする。この映画はトイレ清掃の仕事を描きながらも、現実が過度に「脱臭」され、見たくないものに「蓋がされている」。基本的には悪い人は出てこず、汚いものは写らず、危険な出来事は起こらない。そんなファンタジーの中でさえも平山のルーティンが簡単に綻んでしまいそうな不穏さがあるのだ。もちろんその綻びや他者との関わりから生まれる瞬間のかけがえなさも描いていて、個人の物語としてはすばらしかった。しかし、作り手たちの意図せぬところで、わたしには、平山のルーティンが「この世界で正気を保つ」ための祈りのようにも見え、映画以上に苛酷な現実社会で正気を保つことの難しさを逆に強く感じてしまった。

圧巻のラストシーンは、そのためにこの映画を観る価値があるほどすごかった。「平山 突然泣き出す」としか書かれておらず、役所広司は喜びの涙として笑顔を表現したそうだ。ただ、わたしはどうしても『すばらしき世界』の三上を思ってしまったし、何なら『ジョーカー』のことも思ってしまった。すごく良い映画だと思うんだけど、自分の中で折り合いをつけるのが難しい映画だった。


niewmedia.com


★★★★

*1:端的に言うと電通


狂ってやがる。
世界の北野武監督が描く"本能寺の変"は、戦国史を破壊する超・衝撃作!!

原作・監督・脚本・編集:北野武
撮影監督:浜田毅
編集:太田義則
美術:瀬下幸治
衣裳デザイナー:黒澤和子
装飾:島村篤史
助監督:足立公良
音楽:岩代太郎
能楽監修:観世清和


やっとモノホンの「あなたこそ跡取りなのに…」キターーー!空気階段もぐらやビトたけしのモノマネを浴びて、妙にハードルが上がっていたけれど。楽しかった!

アウトレイジというか戦国版おっさんずラブじゃん(見たことないが)。久しぶりに『御法度』観直したくなりました。武将は美化されがちだけど、みんな俗悪に描かれているのが良かった。(だって時の権力者だもんね。)
文脈や関係性の話なので「キャスティング楽しかっただろうなぁ」とか、パンチライン続出なので「これは芸人は喜んでマネしたくなっちゃうよなぁ」とか、ほこほこしながら観ました。

加瀬亮に似てる後輩がいるので、ちょっと複雑な気持ちになった(笑)村重の口に刀つっこむ時「ちょ!あんたやめときなよ!」って言いそうになった。(後輩は温和な子です。)

結局、信長の「生まれてから死ぬまで全部遊びだわ! 」が真理に見えてくるような、痴情のもつれや駆け引きが展開されるのがおもしろい。「全員血祭りに上げてその後自分の首を落としたら…」という孤独と寂寥感は、ヨッ!北野映画!という感じでハッとさせられました。

しかし、なんだかんだで一番ぐっときてしまうのは、インタビューとか読むと実感する北野武の「殿」っぷり。

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この先、こんなリッチな時代劇を撮ってくれる監督って出てくるんだろうか?と思うと、ちょっとせつない気持ちになりました。


★★★★

さかなのこ


ずっと大好き。それだけで人生はミラクル。

監督・脚本:沖田修一
脚本:前田司郎
撮影:佐々木靖
編集:山崎梓
美術:安宅紀史
装飾:三ツ松けいこ
衣装:纐纈春樹
ヘアメイク:宮内三千代
助監督:玉澤恭平
音楽:パスカルズ
主題歌:CHAI
原作・魚類監修:さかなクン


沖田修一監督らしい、優しくファンタジックな人生讃歌でありながら、全編を通して孤独と狂気が通底する映画でもあった。周りの人間がみな優しく、ミー坊もまたポジティブを波及させていく物語なので、基本はほっこりあたたかい気持ちになるんだけど、『こちらあみ子』に通じるようなこわさもずっとあった。

「変わらないこと」「好きなことを貫くこと」はどうしてこんなに孤独でハードコアな作業になってしまうのか。映画で観るミー坊はキラキラと輝いて愛おしくて応援したい存在なのだが、自分が母親だったらやっぱり信じ切れないだろうなと思う。水族館の先輩のように困惑し、モモコのように自分たちを邪魔者のように感じてしまうような気がする。ギョギョおじさんのことだって通報してしまうだろう。

しかし、のんさんって本当に唯一無二の女優さんだなぁと思う。この人にしかできない!と毎度思わされるし、目の輝きを自在に操れるのすごい!そしていつも鑑賞後「能年玲奈 スキンケア」で検索してしまう…。(暴飲暴食や間食はしないんだってさ……。)


★★★★

LOVE LIFE


孤独を抱いて、自由になる。

監督・脚本・編集:深田晃司
撮影:山本英夫
編集:シルビー・ラジェ
美術:渡辺大
音楽:オリビエ・ゴワナール
主題歌:矢野顕子


人生絶望予行演習映画を撮る深田晃司監督。今回も冒頭から異様な手際の良さで日常に潜む不穏や地獄を描いていく。不意に訪れる思わず悲鳴がもれてしまうような悲劇。そこから、理屈や正しさやモラルでははかれない、人間の生理的な感情や衝動が噴出していく。韓国が出てくるのを抜きにしても、イ・チャンドン的な韓国映画のバランスや味わいを感じた。

「ないわー」と思ったキャラが「意外とこういうところは好きかも」に転じたり、観客も主観を開放される気がする。人によって好き/嫌い、理解できる/できないキャラは全然ちがうと思う。例えば、わたしは義母がベランダで煙草をふかしながら語った話が好き。妙子やシンジは自分にあまり似たところはないのだけれど、なんとなく行動原理はわかるし、ある死に対して近いテンションでいてくれる存在を求めてしまう気持ちもわかる。夫の二郎が一番嫌いなのだけれど、それはどうしてか…と突き詰めていくと、おそらく自分に二郎的なところがあるからだと思う。それを突きつけられるのはけっこう気まずい。ただ、わりとどの登場人物にも寄り添える余地があり、どの登場人物もすぐに非を認めて謝れるところが良かった。

中でもやはり主人公を演じた木村文乃さんの実在感はすばらしかった。なぜか雨のなか韓国歌謡で踊るに至ってしまった彼女の後ろ姿にどうしても好感を持ってしまう。飛び方や着地も含めて『寝ても覚めても』にとても近いと感じた。行くところまで行き着いてしまった男女二人を見守る目線の優しさが、余韻として深く残る映画だった。


★★★★

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン


赤い月の夜、カノジョは突然覚醒した。

原題:MONA LISA AND THE BLOOD MOON
監督・脚本:アナ・リリー・アミールポアー
撮影:パベウ・ポゴジェルスキ
編集:テイラー・レビ
美術:ブランドン・トナー=コノリー
衣装:ナタリー・オブライエン
音楽:ダニエル・ルピ


うわー!この監督のセンスすごくすごく好き!!!メインビジュアルや「次世代のタランティーノ」という煽りから想像されるよりはるかに地味で小ぢんまりとした作品なのだけれど。

まず、「おれが考えた最強の女の子!」をチョン・ジョンソに演じさせてるの最高最高最高!『バーニング』でも圧倒的だった存在感と佇まいを堪能できる。

チョン・ジョンソはオファーを受けた後、自費で監督に会いに行きそのまま一週間合宿したそうで、二人ともダンス・ミュージックが好きで意気投合したとのこと。その様子遠くから見守らせてほしい…。そんなエピソードが本当にしっくりくる、音楽が最高な映画でもあった。めちゃくちゃ踊りたくなった映画、久しぶりに観たなー。

監督イケてる!

そして、厨二設定ぶちかましておきながら、起こるできごとは妙にほっこり。不穏な雰囲気を漂わせてたむろするパンクスやDJはみな面倒見が良くて親切。最強能力を使っておこなう犯罪やいじめっ子への制裁のしょぼさ。捜査はなぜかずっと怪我人が担当している。スーパーハイヒールを履いたストリッパーと杖をついた警察のスローすぎるチェイスシーンの腰砕け感。無色透明なモナ・リザが相対する人間の映し鏡のように変わるのがおもしろかった。

ケイト・ハドソンが演じたボニー・ベルのキャラクターもとても良かった。筋が通ってるところと小ずるいところが並存していて、血が通っている。この手のキャラクターは過度に神聖視されたりしがちだけど、息子にひどいこと言われたり、モナに一旦嫌われたり、手痛すぎるしっぺ返しを食らったりするのもリアルだった。*1

ぐっとくるシーンも光っていた。モナとチャーリーのハッシングのシーンは忘れられない。子どもながらに音楽で感情を解放することを知っていて、その術をアウトサイダーに授けることの尊さよ。ファズがくれたTシャツ、目玉焼き、餞別も。監督は「うっかりわたしの理想の男性を作ってしまったのかもしれない(笑)」と語っているけれど、そんな監督が好きだよ!

niewmedia.com

またひとり、次回作がとても楽しみな監督と出会ってしまった!


★★★★

*1:キャットファイトで相手がピアスはずすシーンも良かったな~

ジュリア(s)


あの時あの場所で違う選択をしていたらー?
パリ・アムステルダム・ベルリン・NY
名曲の数々で彩られる並行世界の4つの人生


原題:LE TOURBILLON DE LA VIE
監督:オリビエ・トレイナー
脚本:カミーユ・トレイナー、オリビエ・トレイナー
撮影:ロラン・タニー
編集:バレリー・ドゥセーヌ
美術:フィリップ・シフル
衣装:マリ=ロール・ラッソン
音楽:ラファエル・トレイナー


公開当時、「アナザー『エブエブ』」的な評をちらほら見かけて、ずっと気になっていた作品。タイムリープパラレルワールドものはどうしても見逃せない!

とても丁寧で、よく練られた佳作だった。異なる可能性を同時並行で描いていくのだけれど、ジュリアの衣装やヘアメイク、表情などで、置かれている状況がスッと入ってくるよう巧みに演出されている。分岐の見せ方やキーアイテムを駆使した構成など、観客の興味を引っぱりながら混乱は避けるような工夫も上手い。

新しいなと思ったのは、『エブエブ』『アバウト・タイム』きみがぼくを見つけた日』など、タイムリープパラレルワールドものはだいたい主要人物を固定してドラマを描くと思うのだが、この作品は容赦なくパートナーが(子どもも!)変わるところ。「人生は偶然と選択の積み重ね」ということの基本は「個人」であり、ジュリアの根本に変わらずにあるのは「音楽への情熱」だと示されるのは、いかにもフランスっぽい!!!と思いました。

そして、分岐点で「うまくいかなかった」ことが長い目で見ると良い結果に転じているのもおもしろかった。『アバウト・タイム』であれば修正されてしまうであろう「ベルリン行き」や「コンクール」といったイベントが、後々のジュリアに及ぼす影響が味わい深い。ジェーン・スーさんが言う「自分が選んだ道を正解にしていくしかない」を、ジュリアたちの姿から感じる。

ものすごく平たく言ってしまうと、人生なにかを得たり失ったり!良いことも悪いことも起こる!けど、人間の根本が変わらない限り結果はトントン!至極真っ当な「人生」についての映画だったと思う。ただ、やはりエモーショナルというよりテクニカルな印象が残った。タイムリープパラレルワールドものでは、正論を飛び越えるなにかを観たいと思っているのかも…という気は少ししました。
あと、個人的には親権取られた世界線のジュリアが気の毒すぎて…。ジュリアならもうちょいやれるだろ!がんばれ!あとジュリアの友人の育児愚痴が解像度高すぎて……www


★★★★