SKIN スキン

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人は、生まれ変わることができるのか。

原題:SKIN
監督・脚本・製作:ガイ・ナティー
撮影:アルノー・ポーティエ
編集:リー・パーシー、マイケル・テイラー
音楽:ダン・ローマー


ずっとウォッチリストには入っていたものの、しんどそうすぎて放置してしまっていた。

しかし、本作の出資を募るために撮られた同名短編を観たらもうこれがすさまじかった。そら資金もオスカーも獲るわ…というキレッキレの内容。ヘイトの連鎖と因果応報の極みが限りなく端的に描かれていて、うなってしまった。また、道徳的にどんなに最低な親でも子にとっては…というバランスが周到で、レイシズムの根深さが痛烈に伝わってきた。鑑賞後即、長編へとなだれこむしかなかった。

短編でヘイトの連鎖とレイシズムの根深さを鮮烈に描き出した先に、長編ではヘイトをどう克服するのかということが描かれる。

まさに皮膚を剥ぐような痛みや犠牲と共にもがく主人公の転向を助ける、ダリルの存在に胸を衝かれた。

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本作のコピーである「人は、生まれ変わることができるのか。」ということは、イコール「生まれ変わろうとしている人を受け容れるのか」という問いかけでもある。父が薬物依存カウンセラーだったということもあって、ダリルのアプローチはとても理性的だ。ヘイトを返さない、レイシストに寄り添う、というあまりにも難しい行為が、実はレイシズムを駆逐する最大効率の方法なのかもしれない、と思わされる。

個人的には周りに左寄りの人間が多く、中には「〇〇死ね」「ネトウヨ〇〇」といった言葉で悪しざまに罵る人もいるのだけれど、一体それが左が目指す世界へ近づく道なのだろうか?と感じることはよくある。もちろん権力勾配があるから、持たざる者が声を上げそれを大きなムーブメントに変えることが大事なのだろうけど、個人的には半径は狭くとも自分の周りから辛抱強く変えていく人に尊さを感じる。デモと同じように、もしかしたらそれ以上に町内会も大事。

短編では夫に流されがちで子を守りきれない母を演じたダニエル・マクドナルドが、長編では強い母を演じているのも味わい深い。
タトゥーが強制的に刻まれる短編とタトゥーを除去することを選ぶ長編という関係性もすばらしかった。


★★★★

サイダーのように言葉が湧き上がる

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サイダーのように、甘く弾ける、少年少女たちの青春ラブグラフィティ!
コミュニケーションが苦手な少年
マスクで素顔を隠す少女
十七回目の夏に君と会う

監督:イシグロキョウヘイ
脚本:佐藤大
キャラクターデザイン:愛敬由紀子
音楽:牛尾憲輔
原作:フライングドッグ


監督と同い年だからか、本作に散りばめられた「カワイイ」「スキ」に「わかる……」ってなりました。登場人物の心情に合わせてサイダーがはじけるように変化する風景…かわええ~~~!
ストーリーはちょっと弱いとは思うのだけれど、打ちあがる花火のなか俳句を詠むクライマックスは、青春と甘酢が炸裂していて、ベタだけどぐっときてしまった。

もともと「俳句」という文化にかなりエモを感じるのですよね……。青春映画に「俳句」というモチーフとても合っていたし、なにしろ劇中の俳句の出来そのものがよかった。音楽映画の演奏シーンがへぼいと映画全体がだいなしになるのと同じで、劇中のこの肝心の俳句がダサいと話にならないと思うのですが、「夕暮れの フライングめく 夏灯」がキマった瞬間勝ち確。この作品の雰囲気をぎゅっとパッキングすると同時に、この作品自体をも底上げするすばらしい句だと思います。

劇中歌の大貫妙子の起用にはニヤリとしたけれど、郊外のショッピングモールを舞台にシティ・ポップ的センスでボーイ・ミーツ・ガールを描く、というのはわたしにとっては完全にtofubeatsなので主題歌オファーしてほしかったなぁぁぁというきもち(『寝ても覚めても』の「RIVER」もびっくりするくらい良かったので)。


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あと、市川染五郎の声とても合っていたんだけど、クライマックスのシャウトは脳内で神木くんに変換されてしまったので、「神木くん…おそろしい子…!」ってなりました。


★★★★

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊


原題:THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN
監督・脚本・ストーリー・製作:ウェス・アンダーソン
ストーリー:ロマン・コッポラ、ヒューゴ・ギネス、ジェイソン・シュワルツマン
撮影監督:ロバート・イェーマン
編集:アンドリュー・ワイスブラム
美術:アダム・ストックハウゼン
衣裳:ミレーナ・カノネロ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
音楽監修:ランドール・ポスター


映画…なの……?鑑賞後の体感は、映画館というより美術館や資料館の方が近い。とても豊かでぜいたくな展示を観たあとのような。情報が詰まっているからかとても長く感じる108分だった。絵本と親和性が高いウェス・アンダーソンの作品だが、今回は「雑誌」(しかもニューヨーカー)がモチーフということで、ぐっとおとなっぽく、格調高く、対象との距離が遠く温度が低い印象で、消えゆく雑誌文化への郷愁が感じられた。


とくに新鮮に感じたのは、STORY 1「確固たる名作」で、ウェス・アンダーソンにしてはめずらしく「こども」的な要素が排除されていて、一番好きなパートだった。レア・セドゥのポーズを付けるのにフィリップ・ドゥクフレを起用したりと、くらくらするようなぜいたくさ。


逆に一番今までのウェス・アンダーソンの作風に近いと思ったのは、STORY 3「警察署長の食事室」。アニメーションも効果的に使われいて、楽しく奇想天外な冒険活劇になっている。シェフ役のスティーヴン・パークがいい味出しててすき。ここでも、シアーシャ・ローナンの瞳使いのぜいたくさよ。


シャラメは…シャラメだよ。無双…人類の彼氏……。

全編を通して曲者記者たちの取材はギリギリだが、STORY 2「宣言書の改訂」にいたっては、記者が取材対象に完全にコミットしてしまう。ウェス・アンダーソンはこの「記者」という危ういバランスの職業を「映画監督」と重ね合わせて見ているような気がした。

しかし、映画全体として見ると、この形式が成功しているのかはよくわからない。ウェス・アンダーソンとして新境地を見せてくれた気はするし、体験としては楽しかったけれど、この形式が効果的に機能し映画を高めてくれているという気は正直しなかった。
以前は「父性との確執」「ピーターパン・シンドロームからの脱却」「家族の再生」という物語を描きたい監督だと思っていたけれど、ここのところの近作は、自分の好きなカルチャーへのラブレター的な作品が多くて、撮りたい画はあるけれど、撮りたい物語はもうそんなにないのかな?という印象を受けた。


★★★★

コーダ あいのうた


家族の中でたった一人 健聴者である少女は、「歌うこと」を夢みた。
聞こえない耳に届く最高にイカした歌声が、今日、世界の色を塗り替える。
第94回アカデミー作品賞/助演男優賞/脚色賞


原題:CODA
監督・脚本:シアン・ヘダー
撮影監督:パウラ・ウイドブロ
編集:ジェロード・ブリッソン
プロダクションデザイナー:ダイアン・リーダーマン
衣装:ブレンダ・アバンダンドロ
コンポーザー:マリウス・デ・ヴリーズ
音楽プロデューサー:ニコライ・バクスター


すごく良かったんだけど、期待しすぎた面もあったかなー!というのが率直な感想。2015年に観たきりで今回とくに復習もしなかったオリジナル 『エール!』の印象が思った以上に鮮烈に清々しく自分の中に残っていて……。「7年前にこれ撮ってたのもっと評価されてもよいのでは??」とひるがえって『エール!』の評価を上げることになりました。とにかく復習もしてないので、ぼんやりした感想で申し訳ないのですが……。

『コーダ』は『エール!』をとてもていねいにブラッシュアップさせている印象で、『エール!』と比べても洗練されているし、メッセージや映画としての輪郭がはっきりし整っていると思うのだけれど、それらはすべて聴者の観客に向けた演出な気がして…。タイトルにも象徴されるように『エール!』の方がこの家族を「ふつう」の家族として捉えているようなフラットさ・抜けの良さがあるような気がしてすき。一家の生業を農業から漁業に変更したことでより映画としてはわかりやすくなったけれど、「それってなんのため?」という気はしてしまった。
あと2022年のいま、母が「健聴だとわかったときがっかりした」と家庭内マイノリティの娘に語るのはがっつりアウトだと思う*1し、福祉や周囲の人間等の意識はもうちょっとアップデートされていてほしい気もした。

とはいえ、『エール!』で感動した歌描写は見事に継承されていて、コンサート→父との対話→オーディションとそれぞれに工夫された演出と登場人物たちの心境の変化、そしてすばらしいパフォーマンスが涙をしぼりとっていくので、『エール!』を知らずに観ていたらもっともっと感動できただろうな、とも思った。


『エール!』になくてぐっときたポイントは、お兄ちゃんかな。『シング・ストリート』のお兄ちゃんを彷彿とさせるような人物像にはどうしても弱くて……。『シング・ストリート』のフェルディア・ウォルシュ=ピーロが出てるの確信犯か?と思うくらい(笑)


★★★

*1:ろう者の娘にそう語るのがアウトなように聴者の娘にそう語るのも同じことだと思うし、感動げなシーンとして描かれていたけれど、個人的にはこの映画屈指の残念なシーンだと思う

スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム

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全ての運命が集結する

原題:SPIDER-MAN: NO WAY HOME
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ


早く観なきゃネタバレ踏んじゃうよー!と焦りまくっていたけれど、賢者(友だち)が「過去作復習で後悔はさせない。どうしても時間ないなら『アメスパ2』だけでも」と力強く推してくれたので、無印3とアメスパ2という卑怯な復習で臨みました。いつもありがとう…!これ感動の度合いに大きく影響するじゃんか…!

だいたいみんな同じだと思うんだけど、サム・ライミ版(とくに1)はかなりはっきり覚えているんだけど、マーク・ウェブ版あまり覚えていなかった。さらに直近のトムホの陽の印象が強いので、正直無印3とアメスパ2観返して「こんなつらい話だったっけ?」「そしてMJ(グウェン)こんな猛烈だったっけ?」とがく然とした。


とまぁこんな感じでバタバタでしたが、晴れてIMAX鑑賞。

以下、ネタバレ。

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ハッピーアワー

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監督・脚本:濱口竜介
脚本:高橋知由
撮影:北川喜雄
助監督:斗内秀和、高野徹
音楽:阿部海太郎


濱口監督すごすぎる!とワーワー騒いでいたら、友だちが借してくれた。
期待を裏切らずほんとうにおもしろかった。5時間超えの長さを全く感じないし、サブテキスト読みたいし、サブストーリー蔵出ししてほしい……。濱口監督の講義やワークショップ受けてみたいなぁぁぁ!

とにかく脚本にマーカーを引きながら読みたいほど、パンチラインの連続。膜で隔てたような実のない会話に、ボクシングのような言葉の応酬、そして身体的コミュニケーション。それらを駆使してもこぼれ落ちてしまうものと、それらを超えて伝わるなにか。
「偶然の積み重ねが運命」、「なりたい自分との差からくる自己嫌悪」、「誰にも聞かれなかったから言わなかった」、「誰も悪くないのになぜこんなに傷つくのか」、「正しさとか関係なくない?」と、次から次へとぶっ刺さる議題が湧きだしてきて、ただただ泣いてしまう時間もあった。

もともと群像劇は大好きだけど、各登場人物への距離感が見事だった。間違って見える人の言い分も一理あるように描かれているし、ちょっと嫌いになりそうなタイミングでぐっと引き戻されたり、ずっとシーソーを揺らされ続ける。鵜飼のワークショップで語られていた「自分と他者との重心を探る」ように、映画内で繊細に調整され続けるバランスは、全編にわたってすばらしかった。
ともすれば「濱口監督は離婚テロリストだ……」と感じてしまうような内容で、実際「結婚は進むも地獄 引くも地獄」というせりふがあったり、「良い妻でありたいという気持ちには何の価値もないと、何もしないということで踏みつぶす男」という概念が描写されていたりもする。仮題は『BRIDES』だったそうだが、それを『ハッピーアワー』とほんの少しだけ希望に引き寄せたタイトルにしたことにも、このバランス感覚は象徴されているような気がする。
鵜飼の「全然わかんないんですけど、いいんじゃないですか、すごく」というせりふを聞いて、濱口監督はこういう目線で人を見ているのかな?と思ったりした。

また、特典の『幸せな時間の先に』(出演者インタビュー)がべらぼうにおもしろかった。良彦を演じた役者さんが「脚本を読んで最初は嫌い、友だちになれない、と思った。今は全然ある、友達になれる、と思う。」と話していたのが、まさにこの映画を言い表していると思った。また、ラッシュを観てどんどん魅力的になっていく主演4人にびっくりした、と話している役者さんがいて、これは本当にわたしも同じ!と思った。職業俳優ではない4人の女性のふとした瞬間が、はっとするくらいうつくしく映し出されている瞬間が何度もあって。ずっと共にワークを重ねてきたメンバーならなおさら驚きが大きいのかもしれない。

わたしは濱口監督と村上春樹には親和性があると思っているのだけれど、村上春樹の文体と同じく、濱口監督の電話帳読み演出も発明だな、と思った。あとは、自分がとても影響を受けた『マグノリア』や『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』(江國香織)と近いものを感じて、この作品も何度も反芻することになるだろうなと思う。



追記:
後日サブテキスト掲載の『カメラの前で演じること』も読んだ。


役者の理解のために書かれた脚本がこんなにもおもしろいなんて本当にぜいたくだ。「ベイルート」や「旧グッゲンハイム邸」などディテールが楽しくて、濱口監督のサブカルオタクぶりが伺える。


★★★★★

2021年の音楽をふりかえる

ecrn awardに投稿しました!
https://ecrn.web.fc2.com/tally21.html



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今年はほんとすいません!BTSしか聴いてないんですよ!
わたしがBTSを初めてawardに登場させたのは2018年なのですが、ようやく「Butter」で堂々と沼に落ちようと思いました!遅い!Dynamite新規ですらない!*1 ずっとKポ沼へのお誘いは受けていたんですが、自分含めてみんな、わたしがハマるなら絶対にガールズグループだと思ってたんですよね…。
そうと決めたら即過去の履修。おかげで余暇のほとんどを捧げてしまいました。今年、わたしは途方に暮れていて。子どもはめちゃくちゃかわいいけれど、二児の母という属性にどうしてもなじめなくて。そんな属性にまつわる「社会的偏見や抑圧」を文字通り「防弾」してもらいました。本当に助かったし、人生初の推し活めちゃくちゃ楽しかった。


そんなわけでBTS以外の音楽は、平日の夕食時か休日の朝に子どもたちといっしょに聴くのがメインでした。もしくは就寝時にMIX流すくらい。もうアルバムに向き合う気力がない、って10年以上前からずっと言ってる気がするけど、今年は今までの自分の好みとはちょっと違うものを流す楽しみをひそかに感じることができました。


awardの順位とは少し前後するけど、そういう風によく聴いた6枚はこちら!











Jubilee

Jubilee

  • Dead Oceans
Amazon





よかった曲。

  • Campanella feat. Kid Fresino / Puedo


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  • Anderson .Paak / Fire In The Sky


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  • Doja Cat feat. SZA / KISS ME MORE


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  • FNCY / TOKYO LUV


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  • スカートとPUNPEE / ODDTAXI


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  • Silk Sonic / Skate


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  • Justin Bieber feat. Daniel Caesar, Giveon / Peaches


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  • Regard, Troye Sivan, Tate Mcrae / You


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  • Magdalena Bay / Secrets (Your Fire)


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娘お気に入り枠

アルバムでも挙げたけど。とにかく死ぬほど聴きましたね。

  • Park Hye Jin - Let's Sing Let's Dance


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さて、昨年目標に掲げた肉体改造ですが、ようやく出産前の体重に戻りました!体重が元に戻らないまま第二子を妊娠したので、ずっと体重オーバーの状態が続いていたのですが、わたしと推しは身長がほぼ同じなので「推しはこの体重!(しかも筋肉込み!)」と念じていると、ふんわり「体重戻したいな…」と思っていた頃より確実に効果が出ました。
バレエ習ってますと言うのが恥ずかしいほどからだが硬く、ターンでは目を回すわたしですが、先生に「ターンと股関節の使い方がいきなり上達したけどどうした?」と聞かれて、心当たり一つしかない…って思いました。ようやくポワント(トゥシューズ)のレッスンも再開でき、とても楽しかったです。推しよ、ありがとう!

  • BTS feat. Megan Thee Stallion - Butter


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*1:てか誰か彼ら自身が制作に携わっているから楽曲のクオリティについては心配しなくて大丈夫と一言教えてほしかった…そしてThree 6 Mafiaハンス・ジマーを好きなメンバーがいるよ、と…