スウィング・キッズ

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激動の1951年ー
捕虜収容所で結成された、
国籍も身分も異なる
寄せ集めのタップダンスチーム

英題:SWING KIDS
監督・脚本:カン・ヒョンチョル
撮影:キム・ジヨン
編集:ナム・ナヨン
音楽:キム・ジュンソク


おそろしいほど良くできている映画!
甘辛・緩急・軽妙さと重厚さ・エモさと冷徹さ・リアルとエンタメ、とにかくバランスが神技!
キャラクターひとつ取っても、ただバラバラなのではなく、思想や人種、性別、置かれている立場や境遇が見事な配置になっている。

内容は全然違うけれど、個人的には『パラサイト』を連想してしまった。とにかくまずは映画の出来自体にものすごく感心してしまったあたり。前半は比較的コメディタッチで進むけど、後半はテーマにそぐう悲哀と余韻がドスンとくるようなところも似ていると思う。


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ダンスが大好きなので、華麗なダンスシーンの連打もうれしい。アステア賞受賞のジャレッド・グライムスのすばらしさはもちろん、並び立つD.O.の身体の利きと華にほれぼれしてしまった。この二人のおかげで、イデオロギーを超えるダンスの魅力に圧倒的な説得力がある。自由への渇望が痛いほど胸に刺さってくるタップ、感動しました。


★★★★

オン・ザ・ロック

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原題:ON THE ROCK
監督・脚本:ソフィア・コッポラ


ソフィア・コッポラはすごく思い入れがある監督だし、ビル・マーレイラシダ・ジョーンズも大好きな俳優だし、あいかわらずお洒落なルックの映画だけど、それをもってしても正直「気持ち悪い」という感情がわいてしまった…。

山崎まどかさんの解説も読んだんだけどさー!
www.cinra.net


アラフォーにもなってなお、手を引いてくれる男性を探し続けている感じがつらい。
『somewhere』の感想にも書いたけど、毎度ソフィア・コッポラが漂わせつづける「よるべなさ」と「庇護者探し」が、少女をヒロインに据えていてさえも、監督自身がうっすら透けて見えるようで若干ウッときたのに。

主人公の人格透明感、二人の娘の書き割り感に、ママ友見下し感、男女論など、監督本人のプライベートを鑑みても、背筋が寒くなってくる。

まず主人公がどういう人なのかよくわからない。なにが好きでなにを大事にしていてなにをやりたいのか???あの生活ならおしゃれも仕事もやりたいならできる。なんかふんわりできないって感じになってたけど、深夜の張り込みが可能なんだよ?しないのかできないのかやりたくないのか、すべてが記号的で謎。

娘たちはただただ天使のように描かれていたけれど、あんなに急にひんぱんにベビーシッターに預けられるようになったら不安定になるし、親や祖父の会話や雰囲気だってわかるし察するよ!ママ友の話全然聞いてないのも絶対バレてるし、あのママ友は能動的に生きてるだけ主人公より生産性あるよ…。
鑑賞後、思わずwikiで調べてしまったけれど、
監督自身も姉妹の母なのが本当にこわいと思いました。

そして、最悪なのが父離れのしかた。
そもそもなぜ毎度父についていってしまうのかもわからなかったけれど、夫の浮気が白とわかったとたん、積年の怒りをぶちまけるのは責任転嫁がすぎる。父離れを宣言するなら、夫の浮気の白黒が判明する前にやってくれないとずるい。

そして夫とのこれから(冒険!)も不安……。
わたしなら浮気を疑って異性親といっしょに乗り込んできた時点で、百年の恋も冷めるよ…。「きみも一人の時間をつくったほうがいいよ」と言いながら何もせず、リビングで「パパを寝かせてくれよー」と言いながら子ども見てる夫の描写もうんざりだし、そんな夫からもらう カルティエのタンク is プライスレス……!(ホラーなら秀逸なラスト!)
娘を父から夫へ譲渡完了!というふうにしか観れなくて、もう価値観が古いしダサい……。(お洒落な画とのギャップがなおさらつらい)

ソフィア・コッポラ、わるい意味でウディ・アレン化していかないか、ちょっと心配になってしまった。


★★

mid90s ミッドナインティーズ

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君と出会って、僕は僕になったー
A24が贈る 90年代への愛と夢が詰まった
青春映画のマスターピース

原題:MID90S
監督・脚本:ジョナ・ヒル
撮影:クリストファー・ブローヴェルト
編集:ニック・ホウイ
音楽:トレント・レズナーアッティカス・ロス


予想以上に端正で王道の青春映画!
家族への鬱屈した愛憎、所在なさと無力感、はやく大人になりたいという痛いくらいの思い。
〜からの居場所を見つけ、存在を認めてもらった時の爆発するような歓喜。憧れ、背伸び、嫉妬、焦燥、イノセンスホモソーシャルの長短。そして、長くは続かないモラトリアムとわかっているからこその、鮮烈なきらめきとうつくしさ。
青春映画に必要なものすべてが完璧に詰まっているんじゃないだろうか。

しかもその演出がいちいち粋でさりげなくて、びっくりした。
クルー内のしょうもない会話には余分な間と尺を取っているのに、兄へのプレゼント選びや、病室でのオレンジジュースのくだりのキレといったら!
レイとのマジックアワーという白眉のシーンにもモノローグなど一切入れずに、画のうつくしさだけで勝負する、腕の確かさ!

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登場人物もみんな魅力的。
まず、主人公役のサニー・スリッチの可愛さが異常で、「こんな末っ子キャラが入ってきたら、そら可愛がられるわ!」という説得力がすごい。クルー全体の人間関係を冷静に観察しつつも、彼らのバックボーンを見抜くまでの眼力はまだない、という未熟さ描写もほろ苦くてリアル。
クルー各々が抱える感情や問題をあぶり出していく描写もとても自然で手際がいい。

自分はどうしても母親目線でも見てしまうけれど、このバランスも絶妙。ドラッグにアルコールにセックスー、自分で冒険して学んでいってほしいという信頼とこの危うさをどこまで放任していいのかという不安。スケートショップ怒鳴り込みという地獄描写からの最悪の事態になりかねなかった事故。最後には、悪ガキな彼ら全員が、どうしようもなく愛おしくなってしまう。
きっと今後バラバラの道に滑り出していくであろうクルーが一堂に会した画の尊さよ。

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監督ジョナ・ヒルとは同世代なので、カルチャー描写も刺さらずにはいられない。
部屋のポスター、Tシャツなどいちいち目が追ってしまうし、ラストのThe Pharcyde "Passin' Me By"に至ってはむせび泣き。*1
しかもA24製作で、スパイク・ジョーンズにアドバイスもらってて、パンフレットには野村訓市が寄稿してて……ってどこまで盤石なんだよ!

それにしても、今年、青春映画 当たり年すぎる。
『ブックスマート』と併せて、ジョナ・ヒル兄妹での猛打すごい……。


★★★★★

*1:選曲もさることながら、ずっと見くびられていたアイツが落とすボム…あのスケビはもしかしたらフォース・グレードの最初で最後の最高傑作なのかもしれない、と思うと…

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

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最高な私たちをまだ誰も知らない
史上最高!全米が熱狂した命がけの爆走青春コメディ

原題:BOOKSMART
監督:オリヴィア・ワイルド
脚本:エミリー・ハルパーン、セーラ・ハスキンズ、スザンナ・フォーゲル、ケイティ・シルバーマン
編集:ブレント・ホワイト、ジェイミー・グロス
撮影:ジェイソン・マコーミック
美術:ケイティ・バイロン
衣装デザイン:エイプリル・ネイピア
キャスティング:アリソン・ジョーンズ
音楽:ダン・ジ・オートメイター
音楽監修:ブライアン・リング
製作総指揮:ウィル・フェレル、アダム・マッケイ、ジリアン・ロングネッカー、スコット・ロバートソン、アレックス・G・スコット


今年、まちがいなく青春映画の当たり年ですよね!
ずーっと青春映画の甘酢やきらめきに魅せられつづけてきたけれど、ついに今の時代にはここまでアップデートされてきたか……という『ロング・ショット』の時と同じ感動がありました。
個性や多様性の肯定は当然の前提で、その上で青春映画の定番もきっちり押さえてくる最新型の青春映画!

苦しい現状をていねいにすくいあげる青春映画ももちろんすばらしいけれど、ややファンタジックであっても、今クールと思える価値観で映画内を満たして、観客をひっぱり上げる映画も尊い。青春映画って製作しているのは基本中年なわけだから、中年から青年へのエールが込められていると思うのですが、その内容が正しくて熱くて、そこにもぐっときてしまいました。

これが長編監督デビューのオリヴィア・ワイルドグレタ・ガーウィグ『レディ・バード』で出てきた時の期待感・信頼感がよみがえりました。

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まず、主人公のモリー&エイミーコンビが愛おしくてたまらない。おぎやはぎ並みのほめ合い芸 だいすき!『レディ・バード』に続いて、ジョナ・ヒル妹 青春映画界のミューズかよ!*1

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キャスティングもいちいち気が効いていて、コメディリリーフの校長役に、監督の配偶者でもあるジェイソン・サダイキス。トリプルAと揶揄される女子役に、実際はジョナ・ヒル妹の親友であるモリー・ゴードン。従来なら男子がキャスティングされそうな、エキセントリックなジジやクールな一匹狼ホープ。ヴィクトリア・ルエスガやニコ・ヒラガのスケーター勢のヌケ感もリアル。

パーティーデビュー教材としても秀逸で、一夜の多幸感、冒険、やらかし、喜怒哀楽がぎっしり詰まっている。ドラッグにアルコールにセックス、夜遊びの快楽をパッケージングしながらも、きちんとそのリスクも笑いを添えて描いているのも、すばらしい配慮。
こういうバランスは全編にわたってすばらしい。勇気を出して飛び込めば、思いの外すっと手に入れられる宝物のような時間。でも一夜では取り返せないものの残酷さ。きちんと両面描かれていて、誰にとっても時間やチャンスは平等、という描き方がものすごくフェアだな、と思いました。

ダン・ナカムラによる音楽はもちろん最高!
青春映画の見せ場、プールシーンでかかるPerfume Genius "Slip Away"のうつくしさ・せつなさ。"You Oughta Know"はわたしがイギリスにホームステイしていた時に、失恋したホストファミリーがパブで熱唱していたので、アッーーーと思ったし、最強の助っ人登場時にかかる"What's Golden"は大大大好きな曲、かつ曲のイメージが自分の中でも完全にコレな画だったので、ブチあがりました。わたしもこの曲で登場して若者を助けたい!

主人公たちのもともと持っている良さを肯定しながらも、*2眼を、世界を、開かせ、最後には「でも世界はもっともっと広くて まだまだ成長できるよ おもしろいのはこれから!」という未来への余韻、希望と昂揚感が残るのは、『ハーフ・オブ・イット』と完全に通じるものがあり、同時代性を感じました。
次作もめちゃくちゃ期待してます!


★★★★  

*1:もちろんシアーシャ・ローナン

*2:彼らの城である図書館もちゃんと役に立っている

アルプススタンドのはしの方

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そこは、輝けない私たちの
ちょっとだけ輝かしい特等席。

監督:城定秀夫
脚本:奥村徹
撮影:村橋佳伸
録音:飴田秀彦
サウンドデザイン:山本タカアキ
スタイリスト:小笠原吉恵
ヘアメイク:田中梨沙
原作:籔博晶(兵庫県東播磨高等学校演劇部)
主題歌:the peggies


大大大好きな『桐島〜』に言及するレビューをちらほら見かけて、矢も盾もたまらず観てきました。すばらしい75分の使い方!まさに一服の清涼剤!

とにかくみんないい子……!誰も闇落ちしない折り合い方が、さわやかでまぶしい!応援すること、想いを託すことが尊い
とくに終盤の熱いエールの連打(藤野→宮下↔︎久住)にはぐっときて、めちゃくちゃ泣いてしまいました。そもそもわたしの母校には野球部がなかったので、「吹奏楽で運動部を応援する青春」アコガレる〜〜〜!

ただ個人的な好みで言うと、ちょっとクリーンすぎるかな、という感じも。
まず、脚本と人物の動かし方が上手すぎて、感動を超えて感心してしまった。そして、陽炎がたちのぼる野球場で汗一つかかない画に象徴されるように、設定や監督の采配、「真ん中のつらさ」にやや詭弁を感じてしまった。わたしは、あの感じ悪な吹奏楽部の2人組にこそ妙に親近感がわいてしまうクチなのです。

でも、今の若い子の青春ってこれがリアルなのかもしれないな、とも思う。世の中の常識が急速にアップデートされて、映画の中も、少し前まで定番だった描写がアウトと見なされたり、もう「多様性」や「それぞれの立場や事情」はベースになってきている気がする。近所の子と接している限り、みなとても礼儀正しくてしっかりしているし、映画観て老害化を防がなきゃな……と思う。


★★★

WAVES/ウェイブス

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愛が、再び押し寄せる
傷ついた若者たちが、新たな一歩を踏み出すまでを鮮烈に描く希望の物語。
超豪華アーティストによる31曲が全編を彩る。
ミュージカルを超えた“プレイリスト・ムービー”

原題:WAVES
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
撮影:ドリュー・ダニエルズ
美術:エリオット・ホステッター
衣装:レイチェル・デイナー=ベスト
音楽:トレント・レズナーアッティカス・ロス


予告観た瞬間、「一生の一度の傑作」の予感はバチバチにあったんですよ。なにしろ、「プレイリスト」の豪華さよ!ふだん映画を観ない界隈でも話題になるほどでした。

基本的には看板にまったく偽りはないです…とくに、「プレイリスト」はさることながら、それ以外の劇伴もすさまじかった。音楽も、色彩も、弱さを抱きしめる世界もうつくしい。けれど、わたしはこんなにやさしくなれない……と思ってしまった。波に乗れなかった。


以下、ネタバレ。

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はちどり

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この世界が、気になった
世界の映画祭で45冠、韓国で異例のヒットを遂げた、キム・ボラ監督長編デビュー作

英題:HOUSE OF HUMMINGBIRD
監督・脚本:キム・ボラ
撮影:カン・グクヒョン


高評価は漏れ聞こえてきていたけれど、信頼の友の激推しで、優先順位を上げました。たしかにこれはすごい……。なにがすごいってこれが長編デビュー作というのがやっぱりすごい。
描写自体はものすごく繊細なのに、省略や余白がものすごく大胆で、巨匠感がただごとじゃない。

とにかく徹底的な14才の目線と大胆な余白が圧巻だった。
冒頭のエピソードから不穏な豪速球を放ってきて、目が離せなくなる。自宅のドアが開かず、主人公ウニは母親が故意に開けてくれないのでは、と半狂乱になるが、実は階をまちがえていた、というエピソード。なんということはない話だけど、ここにすでに14才の不安やよるべなさ、認知の歪みがぎゅっと凝縮されている。しかもなんの説明もないし、たぶん観客によって受け取り方もだいぶちがうと思う。

そこから淡々としずかに描かれていく、14才ならではのせまい世界にぱんぱんに詰まった無力感、理不尽、自己嫌悪、やるせなさ、と希望。他人のことどころか、自分のことすらわからずもがく危なっかしさ。世界の残酷さ*1と美しさ。そして、メンターとの出会いによって訪れる成長と開かれる世界の扉。ラストに至って、ウニの目に映る世界は確実に変わっているように見える。

それまでのウニの目に見える世界は、おそらく現実の世界とはすこしずれている。例えば冒頭のエピソードや彼氏のイラスト、友だちの「ウニはときどき自分勝手」という言葉など、そこかしこにピースがさりげなく配置されているので、ほんとうに油断ならない。とくに、ウニの目に映るヨンジ先生の「ファム・ファタル」っぷりはすばらしい。煙草にお茶にお香。あこがれてしまうよね。

そのピースのなかでも、終盤提示される「母親の目線」という一撃は決定打だった。あらすじに書かれている「自分に無関心な大人」という一文に、自分はずっと違和感を感じながら鑑賞していたのだけれど、この描写でそれが決定づけられた。友だちやいっしょに暮らしている家族でさえ、心の中はわからない。それでも視線が合わないだけの、一方通行の愛情は存在する。

他のどの登場人物の目線を通しても、全くちがう物語が姿を現しそうな余白。女性の視線の描写が多いけれど、男性への抑圧にも寄り添っている。そんなふうに個人的なちいさな物語でありつつも、家族は最小単位の国家なんだな、と思わせるような国全体の問題への照射や次の世代へのエールも見事でした。

とくに連想したのはエドワード・ヤンの『ヤンヤン 夏の思い出』。説明しない余白はイ・チャンドン、世界と自分との間のうすい膜、淡く発光するような透明感は岩井俊二。あとは「しこりの消失」やヨンジ先生の造形など、モチーフに激しく村上春樹みがあって、ヨンジ先生失踪するか亡くなるかするのでは……と思ってしまった。

追記:
前述の友だちが教えてくれたので、『リコーダーのテスト』も観ました。

t.co

『はちどり』の前日譚。
よりミニマルで『はちどり』と完全なる地続きでふるえた。これもやはり世界の扉が開かれるちいさな物語で、とても味わい深い。

自我や承認欲求の高まり、よその家との比較や両親の全能感の薄れなど、少しずつ世界が拡張していくウニの成長がまぶしくて切ない。

わたしは、やっぱりどうしても過剰にウニのおかあさんにいれこんでしまう。彼女の「可愛い」に全然嘘はない。ただあまりに疲弊し、摩耗し、諦めてしまっているのだ。でもちゃんと家アップグレードしててえらいじゃん、と思った。


★★★★

*1:「前の学期の話」というパワーワードよ!