愛がなんだ

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全部が好き。
でも なんでだろう、
私は彼の 恋人じゃない。

監督・脚本:今泉力哉
助監督:八神隆治
脚本:澤井香織
撮影:岩永洋
編集:佐藤崇
美術:禪洲幸久
スタイリスト:馬場恭子
音楽:ゲイリー芦屋
原作:角田光代


ジェーン・スーさんに相談したら、「それは執着」「アラフォーになったら覚えてない」って斬られる案件を、飛び越えていくさまがすごかった。スーさんや片岡礼子ら、人生経験に裏打ちされた先人の言葉はある意味真理なんだろう。けれど、それでもやっぱり、その枠に当てはまらないひとや留まらないひともいて、そこにはもはや共感など求められてはおらず―。*1もっと言えば、失くした恋も並行世界ではこんな風にブッ飛んでいるかも…とすら思わせるような、パワーのある作品でした。

前作に続き、甘酢乞食垂涎の繊細な描写。口に出して定義してしまったら、こわれてしまうような関係性のはかなさ。今泉監督は、名前をつけられないような感情や関係性、届くべき人に届かない想いや恋愛の不均衡、片想いの最強さ、に興味があるのかなと思いました。

そして、特筆すべきは、若葉竜也演じる仲原くん!!!彼を好きにならずにいられるひとなんているでしょーか!?

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彼を観るためだけでも、この映画は価値があると思う。ナカハラっちに幸せになって欲しい!なんかおいしいものたくさん食べさせてあげたい!と心底願う点で、わたしの心境はかなりすみれさんに近いものがあり、おせっかいして嫌われないように気をつけなければならない、と思った。(現実との混同)

そしてまた、仲原くんの想い人である葉子さんもきちんとさみしい人であり、仲原くんへの想いを抱えているのがたまらなく良かった。終盤、テルコとの殴り合い*2の迫力たるや。あのクリティカルヒットの打ち合いは、同性同士でないとできない気がする。

マモはよくわからなくて、逆にちょっと興味がわいた。マモはすみれさんとつきあったら予想通りの俺様男になるのか?コンプレックスの吐露は、そこそこ本心なのか、それとも甘い言葉をかけてほしいだけの釣りなのか?とか。*3とりあえず飲みに呼び出しといて自分が壁側、テルコ下座に座らせるのが、クゥ〜〜〜しびれるッてなりました。

ほんとうは原作を先に読んでおきたかったけど、予約図書の到着が間に合わなかったのが悔やまれる。


note.mu

こんな話なら永遠に読んでいられるよ。*4友だちの感想いっぱい聞きたくなる映画でした。

金麦/エビス/プレモル!戎!酔の助!


★★★★

*1:わたしは「田中守になりたい」とか「田中守の親兄弟になりたい」と思ったことはないような気がする

*2:言葉の

*3:成田凌が演じてるからどういう容姿レベルの設定なのかよくわからない…

*4:おんぶのポスタービジュアルの話とか、3人でしかとれないバランスの話、ひざ打ちまくり

パンとバスと2度目のハツコイ

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スキにならずに、スキでいる。

監督・脚本:今泉力哉
主題歌:Leola


シネフィルの方に「好きだと思います」と薦められて。
すごいわー!甘酢乞食にドストライクなやつでした。

年齢や性別や立場に係らない、名前をつけられないような感情の描写がとても丁寧で、思わず観入ってしまった。

自分の価値や相手の感情が信用できなくて、先回りして考え込みすぎて、さみしくありたくて、結婚に踏み切れない、というのは完全に自分もそちら側で、「自分は結婚しない」と思っていた人間なので、のっけから引き込まれてしまいました。
結婚する/した理由を答えられるタイプの人と、答えられないタイプの人、どちらもすてきだ。

登場人物が各々惹かれるさまに、ものすごく説得力がある。あぁ、彼女(彼)はこのひとのこういう部分がまぶしくてしかたがないだろうな、っていう。
ふみにないものがあふれでまくっているけれど、なんとなく「孤独」との距離が似ているたもつ。
絵をやめてしまった姉のことをわかりたくて描く二胡
焼けてしまった駄菓子屋の話に「本当かどうかなんてどうでもいいよ」と言うふみを見るさとみの表情。伊藤沙莉ー!結婚して子どもがいても自分のセクシュアリティがなおよくわからないって、めちゃくちゃ信頼できる。


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クライマックスの大室山のシーンでは、笑いながら泣いてしまった。みもふたもないたもつの叫びに呼応したふみの叫びは、きっと彼女の気持ちに対してあまりにも単純化されすぎていて、余白やひだの部分が吹き飛んでしまっていただろうけど、それでも叫ぶべき時があるんだろうな。魅力的だー!どうしたらいいんだー!

「その魅力の本質を知ってしまっても、憧れ続けることができるのであれば……」という〆は、ちょっと言語化しすぎなきらいはあるけれど、完全にFAなのでしかたがない。ほんとそうだよな。


★★★★

スケート・キッチン

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いま、私たちはここにいる
世界が夢中のガールズスケートクルーが駆け抜ける現実(ストリート)

原題:SKATE KITCHEN
監督:クリスタル・モーゼル


i-d.vice.com


www.banger.jp

ちょっとこの記事かるくスクロールしてみてくださいよ!最高すぎませんか!?

「女性はキッチンにいるべきだという固定観念を打破すべく結成され、自分たちの居場所であるスケートパークを“キッチン”としている」、というネーミングからして最高な、実在のクルー。ゆえにもうその実在感は折り紙つきで、「AR NYガールズスケートクルー」としては最高の作品でした。


www.fashion-press.net

映画としては、元はMIU MIUのショート・フィルムだった
『THAT ONE DAY』を長編化したということで、若干表面的で散漫な印象は否めないものの、(『ローラーガールズ・ダイアリー』+『KIDS』)÷『アメリカン・スリープオーバー』をぐっと小ぶりにした風合いには、やはり好きな要素しかない。

ローラーガールズ・ダイアリー [DVD]

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  • 発売日: 2010/12/15
  • メディア: DVD


KIDS HDリマスター [Blu-ray]

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  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: Blu-ray



ヒロインの造形も『ローラーガールズ・ダイアリー』そっくり。

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ヒロインのカミーユは、親への葛藤やミソジニーを抱えていて恋愛にも目覚めていないスケートバカ。ゆえに実家、ガールズクルー、ボーイズクルーの3つのコミュニティを渡り歩くことになるのだが、どのコミュニティの一長一短もフラットに描かれているのがおもしろい。良くも悪くもアンチクライマックスで、クールでドライな距離感が今っぽいなぁと思う。

好きだったのはユーモアセンスと音楽の使い方(特にスケートシーン!)。

  • "Move Your Feet / Junior Senior" の全能感/多幸感(ガールズクルー)
  • "Young Dumb & Broke / Khalid"の疾走感/瞬発力(ボーイズクルー)
  • 優等生的な見た目と口調を逆手に取って、屈強なセキュリティの目の前でメイクするトリックの鮮やかさよ!
  • カートのキャラ最高!ワイティティシャツ!ほぼ本人らしいけど、LGBTQのLの彼女が放つ「あんたのママとヤッてる」は最高にフレッシュなカースワード
  • スケビとAVのチャンネル争い
  • ハモニカボイパ
  • クーポンは人を狂わせる
  • ジャネイ父を見てからの~元カレデヴォンの説得力
  • ジェイデン・スミスジェンガ崩し*1


★★★★

*1:アホな男子たちの中で光ってみえる聡明さ・ジェントルさ、思わせぶりな言動の数々…こんなの好きになっちゃうよ!

アベンジャーズ/エンドゲーム


最強の、逆襲へ

原題:AVENGERS: ENDGAME
監督:アンソニー・ルッソジョー・ルッソ
脚本:クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー
撮影監督:トレント・オパロック
編集:ジェフリー・フォード、マシュー・シュミット
プロダクションデザイン:チャールズ・ウッド
衣裳:ジュディアナ・マコフスキー
音楽:アラン・シルヴェストリ


気づけば、GWのほとんどをMCUに捧げてしまった―。ほぼ履修済だったので、当初は最重要そうなところ(アベンジャーズ/キャップシリーズ)だけ復習しようかと思っていたのだけれど、だんだんと欲が出て、結局アイアンマン1とソーシリーズも復習。なにしろネタバレは踏まずにいたものの、識者たちの大絶賛は漏れ聞こえてくるし、Filmarksの点数も満点だらけ。
唯一、『スパイダーバース』は超えなかった、と言ってくれた友だち*1と「わたしにはセラピー会が必要」と言った妹*2の言葉だけが、はやるわたしの裾をつかんでくれた。ほんとこんな深い哀しみに襲われるとは思ってもみなかったよ。

以下、ネタバレとうらみつらみが続きます。エンドゲーム未見の方、楽しかった方はどうか見ないでください。

*1:『スパイダーバース』を推してくれた張本人でもあるので、わたしの未来が視えてるのか?Dr.ストレンジなのか?と思う

*2:LAコミコン参加の、ロキ推し猛者

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キャプテン・マーベル

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彼女の<失われた>記憶が、世界を変える。
これは、アベンジャーズ誕生前の物語。

原題:CAPTAIN MARVEL
監督・脚本・ストーリー:アンナ・ボーデン,ライアン・フレック
脚本・ストーリー:ジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレ ット
ストーリー:ニコール・パールマン,メグ・レフォーヴ
撮影監督:ベン・デイヴィス
編集:エリオット・グレアム,デビー・バーマン
プロダクションデザイン:アンディ・ニコルソン
衣裳:サーニャ・ヘイズ
音楽:パイナー・トプラク
音楽監修:デイヴ・ジョーダン


今週末より夫がUSツアーにつき、『ブラック・クランズマン』とハシゴ~…したのが、凶と出てしまったか……。残念至極、選ばれなかったーーー!ただただ個人的な好みと外れてしまった。

以下、列記。

  • ブリー・ラーソンとてもがんばっているしチャーミングなのだけれど、最強ヒロインはどーーーうしても体が利くひとであってほしかった……!
  • おそらくそれをカバーするためにアクション描写がわかりづらく、快感がない…
  • ロナンやコラスが既出なのでミステリー要素皆無。覚醒までがひたすらだるい…
  • 選曲のくすぐりは感じるんだけど、「その曲のここを切り取ってくるか~」という好みが合わない…
  • そもそも「スーパーマン」的なヒーローが好みじゃない…


冒頭のスタン・リー仕様のマーベル・ロゴ、呪縛からの覚醒シーン(何度でも立ち上がってくるマッケンナ・グレイス!)、ジュード・ロウの詭弁(笑)、にはぐっときたのですが。何度でも立ち上がってくるけど、そもそもなんで倒れてたんだっけ?「おまえには無理だ」ってやたら言われてるけども…という薄味感が否めない。

『ブラック・クランズマン』の熱い魂を浴びた後だと、小器用にまとめたビジネス感が否めなかったです。「エンドゲーム」を盾にした、観客へのやりがい搾取(?)を感じてしまった。


★★

ブラック・クランズマン


前代未聞の実話!
黒人刑事がKKKに潜入捜査
痛快リアル・クライム・エンターテインメント!
2018年カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ
第91回アカデミー脚色賞

原題:BLACKKKLANSMAN
監督・脚本・製作:スパイク・リー
脚本:チャーリー・ワクテル,デヴィッド・ラビノウィッツ,ケヴィン・ウィルモット
撮影監督:チェイス・アーヴィン
編集:バリー・アレクサンダー・ブラウン
美術:カート・ビーチ
衣装:マーシー・ロジャーズ
音楽:テレンス・ブランチャード
原作:ロン・ストールワース


news.yahoo.co.jp

アカデミー賞でのスパイク・リーのニュースを見て、「これは相当気合入ってるんだろうな…」と思っていましたが、予想を超えてすごかった!
御大印の、もはや映画としては危うい、猛烈なバランス。笑えるしハラハラするし、映画的な娯楽性は担保しつつも、「で、おまえはどうなんだ?」と、常に観客が自己批評に晒されるヒヤヒヤ感がそれを上回ってくる。政治信条によってはアレルギーを引き起こしかねない劇薬を投下してきました。

「BPPとの比較でKKKの愚かさを際立たせている」という評をいくつか目にしてびっくりしたのだけれど、むしろ、そうは描いていないところ*1がすごい、とわたしは感じた。
つまり、この映画を観る層であろうマイノリティ側やインテリリベラルにも内在する先入観や差別意識、硬直性を指摘しているところ。劣悪な環境に身を置いて、日々自分の周りから事態を変えようと戦っているロンは、怒りや声高なデモ以上に状況を前進させているように見える。「俺はノンポリ扱いか?」という叫びは、強烈に胸に刺さるものがある。

ノンポリに見えるひと」の矜持のあり方は、『この世界の片隅に』『ペンタゴン・ペーパーズ』を思い出したりもした。

ロン演じるジョン・デヴィッド・ワシントンの華も、信頼できる男アダム・ドライバーの安定感もすばらしかった!

なにより、終わりぎわに抱かされる石の重さをほんのひとときでも忘れさせてくれるような『Too Late to Turn Back Now』よ!あまりのうつくしさに思わず泣いてしまったよ。

www.youtube.com


★★★★

*1:もちろんそういう一面はあるけど…。BPPをクールと取ってしまう観客がいることこそが、スパイク・リーが危惧している状況そのものだと思うと尚更こわい話

グリーンブック


行こうぜ、相棒。
あんたにしかできないことがある。
1962年、粗野なイタリア系用心棒トニーは、カーネギーホールに住む天才黒人ピアニストDr.シャーリーのコンサートツアーに同行する。行き先は差別の色濃い南部。頼りは<黒人専用ガイド(グリーンブック)>―。感動の実話!
第91回アカデミー作品賞/脚本賞助演男優賞

原題:GREEN BOOK
監督・脚本・プロデューサー:ピーター・ファレリー
脚本・プロデューサー:ブライアン・カリー
脚本:ニック・ヴァレロンガ
撮影監督:ショーン・ポーター
編集:パトリック・J・ドン・ヴィト
美術:ティム・ガルヴィン
衣装:ベッツィ・ハイマン
音楽:クリス・バワーズ
音楽監修:トム ・ウルフ,マニシュ・ラヴァル


超満員の映画館で観て、この映画が作品賞を獲ってよかったな、と思いました。久しぶりに映画を観るような人には、派手さはなくとも、まっとうでさわやかでしみじみ良いなと思えるような映画を観てほしい。そう思うと、『英国王のスピーチ』(2010年)や『スポットライト』(2015年)系譜の王道がオスカーを制したのだな、と思いました。

旅と共にじわじわとすすんでいく相互理解や関係性は、ヴィゴとマハーシャラ・アリの魅力やそれにずっと伴っていく小粋な音楽とあいまって、ずっと観ていたいと思えるものだった。ケンタッキー、ラブレター、クリスマス、どのエピソードもチャーミングで、笑えてちょっと泣けてしまう。

鑑賞後、念のため「ヴィゴ 体型 今」で検索してしまった。


★★★