羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来

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妖精のためにー
妖精とともにー

監督・脚本:MTJJ


とにかく中国産というところがフレッシュでとてもおもしろかった!
かっこいいとかきもちいいとか萌えるとか、アジア圏共通の感覚をつよく感じて心地よかった。
みんなで卓を囲む飲茶や画虎の店の造形、あざとすぎるムゲンのキャラ(料理下手・口下手・方向音痴、でバカ強!)など「うーん、…いい!」とほとんど反射的に和んでしまう。
一方で和製とはちがう世界観もおもしろくて、人間と妖精の比率(妖精の多さ!)、人間と妖精の共生のしかたなど、中国ならではのスケールの大きさを感じた。

物語も作画も緩急がすばらしかった。
アクションシーンのぬるぬるキビキビのきもちよさは言わずもがな。
ストーリーも超大国ならではの意義を感じる問題意識を掲げながら、ムゲンがシャオヘイの襟元をそっと直してあげたり、答えを押しつけないさりげなさも両立していて、奥ゆきがある。

そして、シャオヘイに子の可愛さが煮詰めてぶちこまれていてもう…!手足のぷにぷに感やムゲンに飛びついた時のフォルム!!懐柔されてしまった健気さや、3秒前のこと忘れてしまうような呑気さ、大人がハッとさせられるシンプルな柔軟さや聡明さは、ずっと見ていたいと思わせてくれるまぶしさでいっぱいでした。


★★★★

ウルフウォーカー

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英題:WOLFWALKERS
監督:トム・ムーア、ロス・スチュワート
脚本:ウィル・コリンズ
音楽:ブリュノ・クーレ、KiLA
楽曲:AURORA、マリア・ドイル・ケネディ、ソフィア・クレ


まずは、デザインのうつくしさに終始うっとり!
犬(狼)も植物もフォークロアも個人的に大好きなモチーフなので、エンドロールのイラスト一点一点が部屋に飾りたいほど、めちゃんこ好み!!

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この絵柄、タトゥーで入れたらかわいくないですか?

現実にある抑圧の苦しさをしっかり描きながらも、『もののけ姫』『おおかみこども〜』『ヒックとドラゴン』に通じるようなアニメーションの快楽に満ちあふれた異種交流譚になっていると感じた。
二人のヒロイン、ロビンとメーヴがほんとうに健気でかわいい、最高のシスターフッド
わたしもイッヌ(狼)たちの渦に包まれたい〜〜〜

版画調で直線な街と、水彩調で曲線な森の対比も、感覚的にとてもわかりやすく、自分の子どもにも観せたくなった。

安全を理由に子をコントロールしようとする父の姿は、自分も身に覚えがあって心苦しくなった。
とくに、ロビンが父の呪いの言葉をメーヴにもかけてしまうシーンは、かなり胸に刺さるものがあって、戒めになった。父が弱さを認めて解放される姿にすこし救われたけど。

境界を越えて、完全に「あちら側」へ行くラストにはすこしびっくりしたが、*1自分が少女だったら、このラストにはかなりあこがれるし、大人としては、このラストしか選べない現実をかえりみて、哀愁を感じた。


★★★★

*1:「結局お互いの世界に戻るけど、絆は永遠」的なラストがセオリーではないかと思う

スウィング・キッズ

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激動の1951年ー
捕虜収容所で結成された、
国籍も身分も異なる
寄せ集めのタップダンスチーム

英題:SWING KIDS
監督・脚本:カン・ヒョンチョル
撮影:キム・ジヨン
編集:ナム・ナヨン
音楽:キム・ジュンソク


おそろしいほど良くできている映画!
甘辛・緩急・軽妙さと重厚さ・エモさと冷徹さ・リアルとエンタメ、とにかくバランスが神技!
キャラクターひとつ取っても、ただバラバラなのではなく、思想や人種、性別、置かれている立場や境遇が見事な配置になっている。

内容は全然違うけれど、個人的には『パラサイト』を連想してしまった。とにかくまずは映画の出来自体にものすごく感心してしまったあたり。前半は比較的コメディタッチで進むけど、後半はテーマにそぐう悲哀と余韻がドスンとくるようなところも似ていると思う。


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ダンスが大好きなので、華麗なダンスシーンの連打もうれしい。アステア賞受賞のジャレッド・グライムスのすばらしさはもちろん、並び立つD.O.の身体の利きと華にほれぼれしてしまった。この二人のおかげで、イデオロギーを超えるダンスの魅力に圧倒的な説得力がある。自由への渇望が痛いほど胸に刺さってくるタップ、感動しました。


★★★★

オン・ザ・ロック

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原題:ON THE ROCK
監督・脚本:ソフィア・コッポラ


ソフィア・コッポラはすごく思い入れがある監督だし、ビル・マーレイラシダ・ジョーンズも大好きな俳優だし、あいかわらずお洒落なルックの映画だけど、それをもってしても正直「気持ち悪い」という感情がわいてしまった…。

山崎まどかさんの解説も読んだんだけどさー!
www.cinra.net


アラフォーにもなってなお、手を引いてくれる男性を探し続けている感じがつらい。
『somewhere』の感想にも書いたけど、毎度ソフィア・コッポラが漂わせつづける「よるべなさ」と「庇護者探し」が、少女をヒロインに据えていてさえも、監督自身がうっすら透けて見えるようで若干ウッときたのに。

主人公の人格透明感、二人の娘の書き割り感に、ママ友見下し感、男女論など、監督本人のプライベートを鑑みても、背筋が寒くなってくる。

まず主人公がどういう人なのかよくわからない。なにが好きでなにを大事にしていてなにをやりたいのか???あの生活ならおしゃれも仕事もやりたいならできる。なんかふんわりできないって感じになってたけど、深夜の張り込みが可能なんだよ?しないのかできないのかやりたくないのか、すべてが記号的で謎。

娘たちはただただ天使のように描かれていたけれど、あんなに急にひんぱんにベビーシッターに預けられるようになったら不安定になるし、親や祖父の会話や雰囲気だってわかるし察するよ!ママ友の話全然聞いてないのも絶対バレてるし、あのママ友は能動的に生きてるだけ主人公より生産性あるよ…。
鑑賞後、思わずwikiで調べてしまったけれど、
監督自身も姉妹の母なのが本当にこわいと思いました。

そして、最悪なのが父離れのしかた。
そもそもなぜ毎度父についていってしまうのかもわからなかったけれど、夫の浮気が白とわかったとたん、積年の怒りをぶちまけるのは責任転嫁がすぎる。父離れを宣言するなら、夫の浮気の白黒が判明する前にやってくれないとずるい。

そして夫とのこれから(冒険!)も不安……。
わたしなら浮気を疑って異性親といっしょに乗り込んできた時点で、百年の恋も冷めるよ…。「きみも一人の時間をつくったほうがいいよ」と言いながら何もせず、リビングで「パパを寝かせてくれよー」と言いながら子ども見てる夫の描写もうんざりだし、そんな夫からもらう カルティエのタンク is プライスレス……!(ホラーなら秀逸なラスト!)
娘を父から夫へ譲渡完了!というふうにしか観れなくて、もう価値観が古いしダサい……。(お洒落な画とのギャップがなおさらつらい)

ソフィア・コッポラ、わるい意味でウディ・アレン化していかないか、ちょっと心配になってしまった。


★★

mid90s ミッドナインティーズ

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君と出会って、僕は僕になったー
A24が贈る 90年代への愛と夢が詰まった
青春映画のマスターピース

原題:MID90S
監督・脚本:ジョナ・ヒル
撮影:クリストファー・ブローヴェルト
編集:ニック・ホウイ
音楽:トレント・レズナーアッティカス・ロス


予想以上に端正で王道の青春映画!
家族への鬱屈した愛憎、所在なさと無力感、はやく大人になりたいという痛いくらいの思い。
〜からの居場所を見つけ、存在を認めてもらった時の爆発するような歓喜。憧れ、背伸び、嫉妬、焦燥、イノセンスホモソーシャルの長短。そして、長くは続かないモラトリアムとわかっているからこその、鮮烈なきらめきとうつくしさ。
青春映画に必要なものすべてが完璧に詰まっているんじゃないだろうか。

しかもその演出がいちいち粋でさりげなくて、びっくりした。
クルー内のしょうもない会話には余分な間と尺を取っているのに、兄へのプレゼント選びや、病室でのオレンジジュースのくだりのキレといったら!
レイとのマジックアワーという白眉のシーンにもモノローグなど一切入れずに、画のうつくしさだけで勝負する、腕の確かさ!

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登場人物もみんな魅力的。
まず、主人公役のサニー・スリッチの可愛さが異常で、「こんな末っ子キャラが入ってきたら、そら可愛がられるわ!」という説得力がすごい。クルー全体の人間関係を冷静に観察しつつも、彼らのバックボーンを見抜くまでの眼力はまだない、という未熟さ描写もほろ苦くてリアル。
クルー各々が抱える感情や問題をあぶり出していく描写もとても自然で手際がいい。

自分はどうしても母親目線でも見てしまうけれど、このバランスも絶妙。ドラッグにアルコールにセックスー、自分で冒険して学んでいってほしいという信頼とこの危うさをどこまで放任していいのかという不安。スケートショップ怒鳴り込みという地獄描写からの最悪の事態になりかねなかった事故。最後には、悪ガキな彼ら全員が、どうしようもなく愛おしくなってしまう。
きっと今後バラバラの道に滑り出していくであろうクルーが一堂に会した画の尊さよ。

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監督ジョナ・ヒルとは同世代なので、カルチャー描写も刺さらずにはいられない。
部屋のポスター、Tシャツなどいちいち目が追ってしまうし、ラストのThe Pharcyde "Passin' Me By"に至ってはむせび泣き。*1
しかもA24製作で、スパイク・ジョーンズにアドバイスもらってて、パンフレットには野村訓市が寄稿してて……ってどこまで盤石なんだよ!

それにしても、今年、青春映画 当たり年すぎる。
『ブックスマート』と併せて、ジョナ・ヒル兄妹での猛打すごい……。


★★★★★

*1:選曲もさることながら、ずっと見くびられていたアイツが落とすボム…あのスケビはもしかしたらフォース・グレードの最初で最後の最高傑作なのかもしれない、と思うと…

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

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最高な私たちをまだ誰も知らない
史上最高!全米が熱狂した命がけの爆走青春コメディ

原題:BOOKSMART
監督:オリヴィア・ワイルド
脚本:エミリー・ハルパーン、セーラ・ハスキンズ、スザンナ・フォーゲル、ケイティ・シルバーマン
編集:ブレント・ホワイト、ジェイミー・グロス
撮影:ジェイソン・マコーミック
美術:ケイティ・バイロン
衣装デザイン:エイプリル・ネイピア
キャスティング:アリソン・ジョーンズ
音楽:ダン・ジ・オートメイター
音楽監修:ブライアン・リング
製作総指揮:ウィル・フェレル、アダム・マッケイ、ジリアン・ロングネッカー、スコット・ロバートソン、アレックス・G・スコット


今年、まちがいなく青春映画の当たり年ですよね!
ずーっと青春映画の甘酢やきらめきに魅せられつづけてきたけれど、ついに今の時代にはここまでアップデートされてきたか……という『ロング・ショット』の時と同じ感動がありました。
個性や多様性の肯定は当然の前提で、その上で青春映画の定番もきっちり押さえてくる最新型の青春映画!

苦しい現状をていねいにすくいあげる青春映画ももちろんすばらしいけれど、ややファンタジックであっても、今クールと思える価値観で映画内を満たして、観客をひっぱり上げる映画も尊い。青春映画って製作しているのは基本中年なわけだから、中年から青年へのエールが込められていると思うのですが、その内容が正しくて熱くて、そこにもぐっときてしまいました。

これが長編監督デビューのオリヴィア・ワイルドグレタ・ガーウィグ『レディ・バード』で出てきた時の期待感・信頼感がよみがえりました。

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まず、主人公のモリー&エイミーコンビが愛おしくてたまらない。おぎやはぎ並みのほめ合い芸 だいすき!『レディ・バード』に続いて、ジョナ・ヒル妹 青春映画界のミューズかよ!*1

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キャスティングもいちいち気が効いていて、コメディリリーフの校長役に、監督の配偶者でもあるジェイソン・サダイキス。トリプルAと揶揄される女子役に、実際はジョナ・ヒル妹の親友であるモリー・ゴードン。従来なら男子がキャスティングされそうな、エキセントリックなジジやクールな一匹狼ホープ。ヴィクトリア・ルエスガやニコ・ヒラガのスケーター勢のヌケ感もリアル。

パーティーデビュー教材としても秀逸で、一夜の多幸感、冒険、やらかし、喜怒哀楽がぎっしり詰まっている。ドラッグにアルコールにセックス、夜遊びの快楽をパッケージングしながらも、きちんとそのリスクも笑いを添えて描いているのも、すばらしい配慮。
こういうバランスは全編にわたってすばらしい。勇気を出して飛び込めば、思いの外すっと手に入れられる宝物のような時間。でも一夜では取り返せないものの残酷さ。きちんと両面描かれていて、誰にとっても時間やチャンスは平等、という描き方がものすごくフェアだな、と思いました。

ダン・ナカムラによる音楽はもちろん最高!
青春映画の見せ場、プールシーンでかかるPerfume Genius "Slip Away"のうつくしさ・せつなさ。"You Oughta Know"はわたしがイギリスにホームステイしていた時に、失恋したホストファミリーがパブで熱唱していたので、アッーーーと思ったし、最強の助っ人登場時にかかる"What's Golden"は大大大好きな曲、かつ曲のイメージが自分の中でも完全にコレな画だったので、ブチあがりました。わたしもこの曲で登場して若者を助けたい!

主人公たちのもともと持っている良さを肯定しながらも、*2眼を、世界を、開かせ、最後には「でも世界はもっともっと広くて まだまだ成長できるよ おもしろいのはこれから!」という未来への余韻、希望と昂揚感が残るのは、『ハーフ・オブ・イット』と完全に通じるものがあり、同時代性を感じました。
次作もめちゃくちゃ期待してます!


★★★★  

*1:もちろんシアーシャ・ローナン

*2:彼らの城である図書館もちゃんと役に立っている

アルプススタンドのはしの方

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そこは、輝けない私たちの
ちょっとだけ輝かしい特等席。

監督:城定秀夫
脚本:奥村徹
撮影:村橋佳伸
録音:飴田秀彦
サウンドデザイン:山本タカアキ
スタイリスト:小笠原吉恵
ヘアメイク:田中梨沙
原作:籔博晶(兵庫県東播磨高等学校演劇部)
主題歌:the peggies


大大大好きな『桐島〜』に言及するレビューをちらほら見かけて、矢も盾もたまらず観てきました。すばらしい75分の使い方!まさに一服の清涼剤!

とにかくみんないい子……!誰も闇落ちしない折り合い方が、さわやかでまぶしい!応援すること、想いを託すことが尊い
とくに終盤の熱いエールの連打(藤野→宮下↔︎久住)にはぐっときて、めちゃくちゃ泣いてしまいました。そもそもわたしの母校には野球部がなかったので、「吹奏楽で運動部を応援する青春」アコガレる〜〜〜!

ただ個人的な好みで言うと、ちょっとクリーンすぎるかな、という感じも。
まず、脚本と人物の動かし方が上手すぎて、感動を超えて感心してしまった。そして、陽炎がたちのぼる野球場で汗一つかかない画に象徴されるように、設定や監督の采配、「真ん中のつらさ」にやや詭弁を感じてしまった。わたしは、あの感じ悪な吹奏楽部の2人組にこそ妙に親近感がわいてしまうクチなのです。

でも、今の若い子の青春ってこれがリアルなのかもしれないな、とも思う。世の中の常識が急速にアップデートされて、映画の中も、少し前まで定番だった描写がアウトと見なされたり、もう「多様性」や「それぞれの立場や事情」はベースになってきている気がする。近所の子と接している限り、みなとても礼儀正しくてしっかりしているし、映画観て老害化を防がなきゃな……と思う。


★★★