アベンジャーズ/エンドゲーム


最強の、逆襲へ

原題:AVENGERS: ENDGAME
監督:アンソニー・ルッソジョー・ルッソ
脚本:クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー
撮影監督:トレント・オパロック
編集:ジェフリー・フォード、マシュー・シュミット
プロダクションデザイン:チャールズ・ウッド
衣裳:ジュディアナ・マコフスキー
音楽:アラン・シルヴェストリ


気づけば、GWのほとんどをMCUに捧げてしまった―。ほぼ履修済だったので、当初は最重要そうなところ(アベンジャーズ/キャップシリーズ)だけ復習しようかと思っていたのだけれど、だんだんと欲が出て、結局アイアンマン1とソーシリーズも復習。なにしろネタバレは踏まずにいたものの、識者たちの大絶賛は漏れ聞こえてくるし、Filmarksの点数も満点だらけ。
唯一、『スパイダーバース』は超えなかった、と言ってくれた友だち*1と「わたしにはセラピー会が必要」と言った妹*2の言葉だけが、はやるわたしの裾をつかんでくれた。ほんとこんな深い哀しみに襲われるとは思ってもみなかったよ。

以下、ネタバレとうらみつらみが続きます。エンドゲーム未見の方、楽しかった方はどうか見ないでください。

*1:『スパイダーバース』を推してくれた張本人でもあるので、わたしの未来が視えてるのか?Dr.ストレンジなのか?と思う

*2:LAコミコン参加の、ロキ推し猛者

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キャプテン・マーベル

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彼女の<失われた>記憶が、世界を変える。
これは、アベンジャーズ誕生前の物語。

原題:CAPTAIN MARVEL
監督・脚本・ストーリー:アンナ・ボーデン,ライアン・フレック
脚本・ストーリー:ジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレ ット
ストーリー:ニコール・パールマン,メグ・レフォーヴ
撮影監督:ベン・デイヴィス
編集:エリオット・グレアム,デビー・バーマン
プロダクションデザイン:アンディ・ニコルソン
衣裳:サーニャ・ヘイズ
音楽:パイナー・トプラク
音楽監修:デイヴ・ジョーダン


今週末より夫がUSツアーにつき、『ブラック・クランズマン』とハシゴ~…したのが、凶と出てしまったか……。残念至極、選ばれなかったーーー!ただただ個人的な好みと外れてしまった。

以下、列記。

  • ブリー・ラーソンとてもがんばっているしチャーミングなのだけれど、最強ヒロインはどーーーうしても体が利くひとであってほしかった……!
  • おそらくそれをカバーするためにアクション描写がわかりづらく、快感がない…
  • ロナンやコラスが既出なのでミステリー要素皆無。覚醒までがひたすらだるい…
  • 選曲のくすぐりは感じるんだけど、「その曲のここを切り取ってくるか~」という好みが合わない…
  • そもそも「スーパーマン」的なヒーローが好みじゃない…


冒頭のスタン・リー仕様のマーベル・ロゴ、呪縛からの覚醒シーン(何度でも立ち上がってくるマッケンナ・グレイス!)、ジュード・ロウの詭弁(笑)、にはぐっときたのですが。何度でも立ち上がってくるけど、そもそもなんで倒れてたんだっけ?「おまえには無理だ」ってやたら言われてるけども…という薄味感が否めない。

『ブラック・クランズマン』の熱い魂を浴びた後だと、小器用にまとめたビジネス感が否めなかったです。「エンドゲーム」を盾にした、観客へのやりがい搾取(?)を感じてしまった。


★★

ブラック・クランズマン


前代未聞の実話!
黒人刑事がKKKに潜入捜査
痛快リアル・クライム・エンターテインメント!
2018年カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ
第91回アカデミー脚色賞

原題:BLACKKKLANSMAN
監督・脚本・製作:スパイク・リー
脚本:チャーリー・ワクテル,デヴィッド・ラビノウィッツ,ケヴィン・ウィルモット
撮影監督:チェイス・アーヴィン
編集:バリー・アレクサンダー・ブラウン
美術:カート・ビーチ
衣装:マーシー・ロジャーズ
音楽:テレンス・ブランチャード
原作:ロン・ストールワース


news.yahoo.co.jp

アカデミー賞でのスパイク・リーのニュースを見て、「これは相当気合入ってるんだろうな…」と思っていましたが、予想を超えてすごかった!
御大印の、もはや映画としては危うい、猛烈なバランス。笑えるしハラハラするし、映画的な娯楽性は担保しつつも、「で、おまえはどうなんだ?」と、常に観客が自己批評に晒されるヒヤヒヤ感がそれを上回ってくる。政治信条によってはアレルギーを引き起こしかねない劇薬を投下してきました。

「BPPとの比較でKKKの愚かさを際立たせている」という評をいくつか目にしてびっくりしたのだけれど、むしろ、そうは描いていないところ*1がすごい、とわたしは感じた。
つまり、この映画を観る層であろうマイノリティ側やインテリリベラルにも内在する先入観や差別意識、硬直性を指摘しているところ。劣悪な環境に身を置いて、日々自分の周りから事態を変えようと戦っているロンは、怒りや声高なデモ以上に状況を前進させているように見える。「俺はノンポリ扱いか?」という叫びは、強烈に胸に刺さるものがある。

ノンポリに見えるひと」の矜持のあり方は、『この世界の片隅に』『ペンタゴン・ペーパーズ』を思い出したりもした。

ロン演じるジョン・デヴィッド・ワシントンの華も、信頼できる男アダム・ドライバーの安定感もすばらしかった!

なにより、終わりぎわに抱かされる石の重さをほんのひとときでも忘れさせてくれるような『Too Late to Turn Back Now』よ!あまりのうつくしさに思わず泣いてしまったよ。

www.youtube.com


★★★★

*1:もちろんそういう一面はあるけど…。BPPをクールと取ってしまう観客がいることこそが、スパイク・リーが危惧している状況そのものだと思うと尚更こわい話

グリーンブック


行こうぜ、相棒。
あんたにしかできないことがある。
1962年、粗野なイタリア系用心棒トニーは、カーネギーホールに住む天才黒人ピアニストDr.シャーリーのコンサートツアーに同行する。行き先は差別の色濃い南部。頼りは<黒人専用ガイド(グリーンブック)>―。感動の実話!
第91回アカデミー作品賞/脚本賞助演男優賞

原題:GREEN BOOK
監督・脚本・プロデューサー:ピーター・ファレリー
脚本・プロデューサー:ブライアン・カリー
脚本:ニック・ヴァレロンガ
撮影監督:ショーン・ポーター
編集:パトリック・J・ドン・ヴィト
美術:ティム・ガルヴィン
衣装:ベッツィ・ハイマン
音楽:クリス・バワーズ
音楽監修:トム ・ウルフ,マニシュ・ラヴァル


超満員の映画館で観て、この映画が作品賞を獲ってよかったな、と思いました。久しぶりに映画を観るような人には、派手さはなくとも、まっとうでさわやかでしみじみ良いなと思えるような映画を観てほしい。そう思うと、『英国王のスピーチ』(2010年)や『スポットライト』(2015年)系譜の王道がオスカーを制したのだな、と思いました。

旅と共にじわじわとすすんでいく相互理解や関係性は、ヴィゴとマハーシャラ・アリの魅力やそれにずっと伴っていく小粋な音楽とあいまって、ずっと観ていたいと思えるものだった。ケンタッキー、ラブレター、クリスマス、どのエピソードもチャーミングで、笑えてちょっと泣けてしまう。

鑑賞後、念のため「ヴィゴ 体型 今」で検索してしまった。


★★★

スパイダーマン:スパイダーバース


「大いなる力には、大いなる責任が伴う」
ニューヨーク・ブルックリン。マイルス・モラレスは、頭脳明晰で名門私立校に通う中学生。彼はスパイダーマンだ。しかし、その力を未だ上手くコントロール出来ずにいた。そんなある日、何者かにより時空が歪められる大事故が起こる。その天地を揺るがす激しい衝撃により、歪められた時空から集められたのは、全く異なる次元=ユニバースで活躍する様々なスパイダーマンたちだった―。
運命を受け入れろ。
第91回アカデミー長編アニメーション映画賞

原題:SPIDER-MAN: INTO THE SPIDER-VERSE
監督:ボブ・ペルシケッティ,ピーター・ラムジー
監督・脚本:ロドニー・ロスマン
プロデューサー・脚本・ストーリー:フィル・ロード


期待値が上がりすぎて、「これ以上ハードルを上げてくれるな!」と両耳ふさいでワーワーワー!状態の中、わたしの好みをよく知る映画好きの友人が「好きな要素しかないのでは?」と断言し、ト・ド・メ。その友人のススメ通り、IMAX 3Dでぶちかましてきました。

多幸感~~~!なんという快楽!*1楽しすぎてきもちよすぎて涙が出そうになるなんてことあるだろうか!何度Wooooooo!と言いそうになったことか!ずーーーっとスイングしていたい!(観ていたい!)『ヒックとドラゴン』と同種の感動……。*2

映画を観ているあいだじゅう、「マジで好きな要素しかないな……」と感心してしまいました。
パラレルワールド、青春成長譚、ヒーローの継承、覚醒の瞬間、「僕ら全員がパワーを持っていて、誰もが自分の負うべき責任をきちんと果たさなければならない」というメッセージ、Apache / The Choice is Yours、“It’s a leap of faith. That’s all it is.”、Chance The Rapperのポスター、マハーシャラ・アリの"Hey"、ロールシャッハヒョウタンツギ……そもそも男子がエアジョーダン1で、女子がトゥシューズはいてんすよ!なんなん!?


この映画わたしに捧げられてんのかな?と思いましたが、そんなわけはなく徹頭徹尾スタン・リー&スティーブ・ディッコの魂に捧げられた内容であるのもあつかった。
このマルチバースの提示が、悩める凡人たちをどれだけ励ましてくれることか!「ありがとう。僕たちは一人じゃないと教えてくれて」という献辞は涙なしには観られない。「Excelsior!」を掲げつづけたスタン・リーの「サイズは合う、いつかね(It always fits. Eventually.)」というせりふの重みよ!


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それぞれの世界線スパイダーマンがきちんと成長して元の世界に帰っていく姿はすばらしいし、帰っていく順番の、ラストがグウェンじゃなくピーターBなのもいいんだよなぁ。

マルチバースという物語+映像的発明で、たくさんの親愛なる隣人の凡人に絶対の肯定と限りない勇気を与える映画だと思う。最高!!!

追記:
「これはP様の意見を聞かねば!」と興奮醒めやらぬ状態でリスナーメールを送ったところ、見事採用されたのでした。ヤッター!

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★★★★★

*1:高橋ヨシキさんが「射精しそうな映画」と評していてなるほど

*2:何回観ても飛翔シーンで泣いてしまう……

ビール・ストリートの恋人たち


愛があなたをここに連れてきた
第91回アカデミー助演女優賞

原題:IF BEALE STREET COULD TALK
監督・脚本・製作:バリー・ジェンキンス
撮影監督:ジェームズ・ラクストン
編集:ジョイ・マクミロン、ナット・サンダーズ
美術:マーク・フリードバーグ
衣装:キャロライン・エスリン=シェイファー
音楽:ニコラス・ブリテル
音楽監修:ゲイブ・ヒルファー
原作:ジェイムズ・ボールドウィン


『ビール・ストリートに口あらば』って最高の邦題だと思うし、今作の雰囲気にも合っていると思うんだけどな。

前作『ムーンライト』で胸打たれた、この世知辛い世界を限りなくうつくしく描く力は健在でした。この監督の、恋人の、とくに恋の始まる瞬間の、胸をしめつけるような、ときめきややさしさの描写は、ほんとうにすばらしいと思う。
倉庫でのおままごとのようなやりとりからの「The World is ours!」感!はじめてのセックスのいたわりとロマンテッィクさたるや! 村上春樹でいうところの「それを熱源にして、自らを温めていくことができる 滋養あふれた」記憶のかけらたち。

「夢の続き」の田我流のリリックを思い出したりしました。

傷跡の数だけ気の利いたジョークと
溜め込んだ優しさで変えていく Bad days
神様ありがとう 笑いがないと
物語は残酷で退屈な内容
天国に持っていけるのは思い出くらい

ムスヒ (限定盤)

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2人が世界のうつくしさを共有するところと、1人の世界をだいじに守っているところが両面描かれているのもすきだ。

ただ、今の自分にはちょっとだけ苦しかった。
わたしは、昨年末あたりからずっとつらさ(個人比)を感じることが多く、それはもういろんなブツを大量投下して、なんとか日々のきもちをあげているのだけれど。もちろんそれはこの2人が置かれた理不尽な状況とは比べるまでもないようなちっぽけなつらさで。そんな過酷な世界で、2人はお互いを思いやり、信頼できる人々と肩を寄せ合い、思い出というささやかな灯し火で闇を照らしながら、強く生きている。
こんなのを観せられちゃあ、うかつに不平や弱音を吐けないよ……。

いまのわたしには、その高潔さよりも、「あんたはレイプされたことないだろ」や「ありがたいがお前は地獄を知らない」という、完全に間違っているのに味方であるはずのひとになぜか突きつけてしまう、ゆがんだ怒りの切っ先のほうが妙にリアルに感じられたのでした。


★★★★

女王陛下のお気に入り


ごめんあそばせ、
宮廷では良心は不用品よ。
17人の子供に先立たれた孤独な女王と、
その寵愛を取り合う二人の女。
18世紀、イングランドで起きた禁断の物語。
2018年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子審査員大賞
第91回アカデミー主演女優賞

原題:THE FAVOURITE
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ
撮影監督:ロビー・ライアン
編集:ヨルゴス・モヴロプサリディス
美術フィオナ・クロンビー
衣裳:サンディ・パウエル
音響:ジョニー・バーン


「女優」たちの三つ巴の演技合戦&ときめきしかない衣装、最高かよ~~~!『メリー・ポピンズ リターンズ』に続き、サンディ・パウエル様、本当にありがとうございます。黒レースの眼帯には、胸を撃ち抜かれました!!!


エル・ドライバー a.k.a. ダリル・ハンナを思い出したよ~。


いやはや、ひとの感情の種類って、ひとのこころを支配する手管って、こんなにもたくさんあったんだなぁ、と近ごろめっきりさびついているセンサーがめまぐるしく稼動しました。
飴と鞭、賞賛と嘲笑、崇拝と軽侮、献身と威圧、共犯者と庇護者、嘘と真実―、性技、思い出話(ずるい!)、自分の傷をさらすこと、相手の傷に寄り添ってみせること。
3人の女の中の、誰か1人の視点を選んで観ても、内2人の関係性に着目して観ても、3人のバランスを俯瞰で観ても、どれも見ごたえがある。

過去作に比べて格段にわかりやすい設定だけれど、ヨルゴス・ランティモス印の、不条理で滑稽な「檻」に囚われた人間の「さが」をあぶりだす描写と、ばっちりハマっていて、「これはいい題材を選んだなぁ」とホクホクしてしまいました。

陣取りゲームを描いたソープ・オペラ的なおもしろさはもちろんだけど、愛憎や私欲を描くだけではおわらない。俗悪さの中に崇高さが顔を出すバランスは、同じく笑ってしまうほどの共依存ゲームを描いた『ファントム・スレッド』を思い出したりしました。
もっと言えば、虚構や滑稽さや軽薄さと、人生の深刻さや重大さやかけがえのなさが、分かちがたく結びついている様子は、『存在の耐えられない軽さ』。


わたしの推しは、やはりレイチェル・ワイズ演じるサラ。
鑑賞中はあまり意識していなかったけれど、今にして思えば、わたしはオリヴィア・コールマン(アン女王)の視点で観ており、結局これはずっと2人の物語だった、とすら思ってしまった。途中、エマ・ストーン(キャリアハイ更新のハマり役!)のコケティッシュな魅力に陥落しつつも、終盤は自分が見つめ続けたひとは誰だったかに気づく。

この女王の描写のバランスがすばらしくて…。彼女はアビゲイルの魔性やサラのある種の高潔さにずっと勘付いていたようにも、サラが去ってようやく気づいたようにも見える。そして、サラに甘い嘘を言ってほしい反面、決して嘘吐きに堕ちてほしくないようにも、彼女に戻ってほしい反面、彼女を解放したいようにも見えた。

この機微は、『運命の女の子』の「きみはスター」を思い出したりしました。

星は落ちてこないから星なのだ と
ぼくのスター けしてぼくを好きにならないで


ラストの、死のにおいに満ちみちたうさぎたちのショットが示す通り、アン女王は近い将来崩御することとなる。アビゲイルの「あれ?わたしが欲しかったのってこれだっけ?」という最高の死んだ目を見て、サラは試合に負けて勝負に勝ったのだ、と思いました。


★★★★