ミッドサマー


祝祭がはじまる
5人の学生が招かれたのは、白夜に照らされた狂気の祭だったー
恐怖の歴史を覆すフェスティバル・スリラー

原題:MIDSOMMAR
脚本・監督:アリ・アスター
撮影監督:パヴェウ・ポゴジェルスキ
編集:ルシアン・ジョンストン
プロダクションデザイン:ヘンリック・スヴェンソン
衣装デザイン:アンドレア・フレッシュ
音楽:ボビー・クルリック


『ヘレディタリー/継承』で、「次回作はイケそうだ!」と思ったものの、やはり土壇場になると「ひとりではむりかも…」と尻込みしてしまい、夫につきあってもらいました。

結果、この奇祭楽しんでしまった……!トリップ祭からの惨劇という面では『CLIMAX』を、ある種の連帯を伴う、女王支配の治外法権コミュニティという面では『サスペリア』を、思い出したりしました。

観方や経験によってはものすごく不快に感じるひともいるだろうな、と思う一方で、諸星大二郎先生を擁する我が国には比較的親和性が高いのでは?と思ったりも。
主人公ダニーは完全に苦手なタイプだけど、アリ・アスター流の「失恋ムービー」として観ればこの上なく清々しいおとぎ話…。*1
もともとゾッとする不気味さと爆笑の表裏の配分が無二の監督だけに、民間伝承的なモチーフは相性ピッタリでした。


以下、ネタバレ

*1:紙芝居調のオープニングから「"happily ever after"以降の怖さははかりしれない」という余韻まで完全におとぎ話

続きを読む

ハスラーズ

f:id:tally:20200219130637j:plain


私たちは、もう媚びない-
2008年リーマンショックで困窮するニューヨーク・ウォール街
裕福な金融マン達を相手に大胆な詐欺を企てたストリッパー達を描く、驚愕の実話。

原題:HUSTLERS
監督・脚本:ローリーン・スカファリア
原案:ジェシカ・プレスラー
撮影:トッド・バンハーズル
編集:ケイラ・M・エムター
美術:ジェーン・マスキー
衣装:ミッチェル・トラヴァーズ
Inspired by a true story.


ひたすらにJ.Lo姐御の背中を拝み、J.Lo姐御の尻に札ビラをばらまき、J.Lo姐御のファーにつつまれたい映画。『ロング・ショット』に続き、時代が待っていたやーつ!

とにもかくにもJ.Loがすごい。なんでオスカー獲れないの?Fiona Apple "Criminal"にのってほぼ紐のコスチュームで圧巻の登場をキめ、即叩き出す5億点!心の中でバンバン札を投げましたよ。まさに"The one, the only... Ramona!!!"

f:id:tally:20200219134940j:plain


そこからの、屋上での"Climb in my fur."このコンボにゴロニャーンとならない人類がいるだろうか(反語)。

f:id:tally:20200219134951j:plain


Sisterhoodモノとしてもとてもよくできていた。女たちの連帯の強さやチート状態時のきらめきを描きながらも、その絆の脆さ・儚さや流動性もしっかり描いている。嫉妬、評価、集団性、ライフステージの違いによる疎遠-女ならではのリアルが胸に迫ってくる。

最高の時は一瞬で終わってしまうとわかっているからこそ、主人公が"THE LAST GREAT NIGHT"と回想するUsher来店のシーンの多幸感はただごとじゃない。J.LoUsherの2ショットの破壊力よ-完全にターゲットにされている自覚があった。

f:id:tally:20200219142454j:plain


“Motherhood is a mental illness”というパンチライン。この映画には基本的にこの精神が通底しているのがすばらしいと思った。ちょっとお道化て茶化してみせながらも、皮肉と自戒を込めて、孤独な母親をやさしく受容するような言葉。この言葉で理解できることがたくさんあるような気がする。
Brotherhood映画では妻子を捨てて友情を取ることができるが、Sisterhood映画ではMotherhoodがそれを阻む。その哀しさったらないけれど、その選択を受け止めるのもまちがいなくMotherhoodなのだ。財布から写真を取り出す、菩薩のようなJ.Loの姿には涙が止まらなかった。

個人的には、この集団に所属した場合、わたしはまちがいなくコンスタンス・ウーのポジションだと思う。わたしがデスティニーだった場合、ラモーナを裏切ることはないが、その代わり他人の裏切りも絶対に許さない。そんな自分も「人にやさしく」と自省できるような映画だった。


f:id:tally:20200219143327j:plain


★★★★

アンカット・ダイヤモンド

f:id:tally:20200218143449j:plain


原題:UNCUT GEMS
監督:ジョシュ・サフディベニー・サフディ
脚本:ロナルド・ブロンスタイン、ジョシュ・サフディベニー・サフディ
撮影:ダリウス・コンジ
編集:ロナルド・ブロンスタイン、ベニー・サフディ
美術:サム・リセンコ
衣装:ミヤコ・ベリッツィ
音楽:ダニエル・ロパティン (OPN)


A24 x Netflix! 途切れることのない綱渡りと、瞬時に切られる狂気の舵取りによるジェットコースター。その果てに訪れる妙な感動と深い哀愁。ポン・ジュノの2019リスト入りも納得。

natalie.mu


サフディ兄弟の父が語った話にインスパイアされたという本作は、まずアダム・サンドラー演じるユダヤの宝石商(!)ハワードのアクがすごい。「きみは仕事も恋愛も自転車操業でないと死ぬの?」と問いたくなるようなアドレナリン全開の破綻ぶり。実在したら絶対に近づきたくないタイプ*1のろくでなしなのだが、一挙手一投足に笑ってしまうし、どうしてもにくめない。おそらく彼らの父の“fractured personality”も多分に投影されているせいか、描き方に愛情とやさしさが見える気がする。タイトルの"UNCUT GEMS"は、ハワードが一発逆転をかけるブラックオパールの原石を表しているのと同時に、割礼していない/未成熟 (UNCUT) なハワードを表しているんだろうと、すっと思えるような魅力がある。


f:id:tally:20200218150850j:plain

バカみたいにイイ顔してるよな……。

そして、今のご時世にオールドスクールすぎる愛人ジュリアが大好き!彼女のひたむきでむこうみずな姿が神々しく輝いてみえるのも、映画の良さだなと思う。こんな愛人、誰だってほしいよ!

f:id:tally:20200218151041j:plain


あとは、ケビン・ガーネット (KG)やThe Weekndを本人役でキャストする毒っ気も最高だし、タイトルと音楽のセンスに脱帽!だいぶ好きな味わいの映画です。

サフディ兄弟、チェックしていこうっと。

f:id:tally:20200218153713j:plainf:id:tally:20190908070020j:plain


★★★★

*1:新卒で就職した会社のクライアントに顔もキャラも似た人がいたのだが……

オスカー鑑賞会

年末の「被らなさそうな順に映画年間ベストを発表しあう会」で、いつメンと「今年こそオスカー鑑賞会をやりたいね」と話していたのだけれど、なんとそのうちの一人がマンションを購入し(!)、WOWOWにも加入してくれたため、いきなり実現!それがとてつもなくたのしかった!!!

当日は有休を取り、出勤と同じ時刻に家を出て、朝イチで集合。もう浮かれに浮かれて、紀ノ国屋で食べきれないほどのお菓子を買ってしまう。開催宅の夫妻がそろって迎えに来てくれ、「これはエンドゲームのセラピー会につきあってくれたメンバーだ…!」とひそかになつかしく思う。今年もお世話になります。

あたらしく居心地のよいおうちで、さっそく乾杯。ミッドサマーマントをまとったキメッキメのジャネール・モネイのOPにみんなでテンション爆上がり。

f:id:tally:20200218140521j:plain


ファッションチェックがリアルタイムでできるも楽しい!
個人的MVPは、PRADAのトラックスーツのハズしで女子の心を惑わしまくりの「本社から来た人」ティモシー・シャラメさんと、

f:id:tally:20200218140146j:plain


ドレスとメイクと本人の三位一体感がハンパなきシアーシャ・ローナンちゃん!

f:id:tally:20200218140555j:plainf:id:tally:20200218140541j:plain


思わずメイク担当のKara Yoshimoto Buaさんのインスタもフォロー。
https://www.instagram.com/p/B8YZmchB8lG/?igshid=1q74slph6j4hw


受賞予想、やはり最大の注目は『パラサイト』がどれだけ食い込めるか。個人的には、大好きなタランティーノグレタ・ガーウィグにも獲らせてあげたい。サム・メンデスも好きだけれど、大本命の『1917』は未公開なので気持ちが入れづらい。

さて、最初の山場は外国語映画賞発表。みんな、Ms. メラニーの予想を予習していたので、プレゼンターでペネロペ・クルスが登場した瞬間、「……ということは、アルモドバル受賞!?」~からのポン・ジュノポン・ジュノ本人もここを獲った時点で「今日はここ止まりだ」と思ったらしく、スピーチでキャスト・スタッフに対する謝辞を詰め込んで、「今夜は飲み明かしまーす」と去っていったもの。

そこからの、監督賞受賞!多くのひとがそうであるように、わたしもこのスピーチが一番感動した。

note.com

なにしろ、前述のくだりがあるので、本人が一番びっくりしていたような気がする。そこから必死で紡いだ言葉は本心からの言葉以外の何物でもなく……。スコセッシもタランティーノもめちゃ良い顔しててさ。

www.cinemacafe.net

この2ショット、ほんと最高だよな……。

仕上がりきった家主が「寿司だ!寿司を取ろう!」とお寿司を注文し、満を持しての作品賞発表で、最高の瞬間が訪れる。みんな拍手喝采ののち、「おいしい おいしい」と笑顔でお寿司をパクつく。ずっとつまみ続けておなかなんぞへっているはずなかったのに、みんなで食べたお寿司はふしぎとするする入ってしまい、とてもおいしく感じた。こんな神回あるかい!?控えめに言って、最高でした。

ジョジョ・ラビット


愛は最強。
第92回アカデミー脚色賞

原題:JOJO RABBIT
監督・脚本・製作:タイカ・ワイティティ
撮影監督:ミハイ・マライメア・Jr
編集:トム・イーグルス
美術:ラ・ヴィンセント
衣裳:マイエス・C・ルベオ
メイキャップ & ヘア:ダニエル・サザーリー
音楽:マイケル・ジアッチーノ
原作:クリスティーン・ルーネンズ


キュートでシニカルでとてつもなく優しい、タイカ・ワイティティの作家性がいかんなく発揮されてる。ラスト、重く胸を打つキュートなダンスも含め、戦場版
『ムーンライズ・キングダム』という評も納得。

笑いと残酷性、リアルとファンタジーのバランスを取り、靴と靴紐にまつわる一連のエピソードを鮮やかに配置し、LGBTQなどの要素もしのばせながら、強烈なメッセージを打ち出す手腕は見事。
小さな恋の物語、戦争映画、少年の成長譚、親子ドラマ、ブラックコメディ、など様々な角度からていねいに練り上げられている

ただこの映画が自分にハマったかというと、判断に迷う。コメディ要素が全く機能しないほど、この映画は正直つらかった。ジョジョの成長や受容がみずみずしくて愛おしいながらもとてもかなしく、おとなはまずこんな地獄つくっちゃだめだよな……と胸が痛かった。

スカヨハとサム・ロックウェルは、過酷な世界で大人が「できること」を最大限やっていたけれど、半径10m以内の世界を変えられないままだった。
スカヨハがジョジョの思想を頭ごなしに否定しないところはすてきだったけれど、ジョジョとエルサの出会いはスカヨハが意図したところではないし、ジョジョヒトラーユーゲントサム・ロックウェルは大尉であり続けた。ジョジョとエルサをあのまま遺していくなんて絶対にあってはならなかった。そこへきて、そもそもこんなに立派な大人でもない自分の無力感はすさまじかった。



★★★

ア・ゴースト・ストーリー

f:id:tally:20200127141105j:plain


これは、記憶の旅の物語ー
自分がいなくなった世界で、残された妻を見守る
一人の男の切なくも美しい物語

原題:A GHOST STORY
監督・脚本・編集:デヴィッド・ロウリー
撮影監督:アンドリュー・ドロス・パレルモ
美術監督:デヴィッド・ピンク
衣装デザイン:アンネル・ブローダー
音楽:ダニエル・ハート


これは映画館で観ておきたかった!痛恨!!2018年公開時に観ていたら、年間ベスト級だったろう。A24製作で気になる作品は迷わず行くべきなんだな……。
無神論者でありわたしと同い年の監督の死生観には、琴線に触れるものがあった。チャーミングで深遠な幻想譚。

アスペクト比スタンダードサイズで撮影された画面には、美しいホームビデオやおとぎ話の絵本のような親密な空気感があり、『レイチェルの結婚』を思い出したりした。

一方で、非常に個人的な物語が時空を超えて、永遠性や普遍性を獲得する様子には、『インターステラー』のSF要素や、『ツリー・オブ・ライフ』叙事詩的要素があり、とくに詩情あふれるビビッドなショットの連なりは、テレンス・マリックを連想させた。

時間の伸長や省略の描写も効いていて、えんえんとビーガン用チョコレートパイを食べるルーニー・マーラは圧巻だったし、Kylie Minogueの「Come Into My World」やUAの「閃光」を思わせるようなPV的なアイデアも光っていた。

www.youtube.com

  • UA - 閃光

www.youtube.com


とにかく、後半はずっと泣いていた。感想を見てみると、生者側にも死者側にもそれぞれ感情移入している人がいて、たぶん観る時期や年代によって、また感じることも変わってくると思う。折にふれて観返したい映画になりました。


★★★★★

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋

f:id:tally:20200120150303j:plain


この恋、最重要機密事項。

原題:LONG SHOT
監督:ジョナサン・レヴィン
脚本・原案:ダン・スターリン
脚本:リズ・ハンナ


キタキタキタ!時代が待っていたやーつ!それがこんな初発からきっちりこなれていていいのか!未来の女性大統領とファースト・ミスター。今の時代はこんなロマンティック観せてもらえるのか~、としみじみしてしまいました。おれたちが自慢されたいアメリカ……!ワカンダ・フォーエバー!

単なる男女逆転に留まらず、性別に関わらない
男気や可愛気を描くことに成功しているのがすばらしい。
シャリ姐の「世界を救ってやったぜ」ダブルピース!セス・ローゲンのスロウダンス用選曲スタンバイ!

音楽の使い方もすごく好感度が高くて、"Then He Kissed Me"使いには思わず泣いてしまった。


Then He Kissed Me - The Crystals


Boyz Ⅱ Men!リル・ヨッティ!リル・ウージー・ヴァート!

ただ、ラブコメマナーとして、125分という尺は長すぎるかな、というところと、共和党員&キリスト教信者の親友にまつわるレイシズム批判等が芯を食いすぎていて、ラブコメ要素が吹っ飛びかねないバランスだな、とも思いました。
ジョナサン・レヴィン監督は、『タクシードライバー』『魂のゆくえ』のポール・シュレイダーの弟子ということで、本来はそちらの素養が高い監督なのかなぁという気もする。


★★★★