RRR


友情か?使命か?

原題:RRR
監督・脚本:S・S・ラージャマウリ
原案:V・ヴィジャエーンドラ・プラサード

ジャンプで『イングロリアス・バスターズ』!王道の設定に二人のスターのハンパなき魅力と火&水のモチーフががっちりかみあって、物語をぐんぐん回していくので全く飽きない。アクションと歌とダンスが三位一体となって脳にドーピングしてくるし、屈強でラブリーなおじたちを観ることでしか得られない癒しもあった。


ただ、自国の歴史を鑑みると軽々しく消費してはいけないし、いつこういう風に描かれてもおかしくないというこわさは常に感じた。
あと、個人的にはジェニーさん絡みの描写が常にノイズになってしまった。国籍に関わらず善人はいますよ~というエクスキューズのためだけに存在しているかのようで、行動原理がよくわからなかった。あくまで主演2人の、インドの物語だからと言われればそれまでだけど、対立国の協力者の解像度がここまで低いとやっぱり映画の足を引っ張ってしまっているように感じた。


★★★★

All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合


こいつらがいたから、今のストリートがある

原題:ALL THE STREETS ARE SILENT: THE CONVERGENCE OF HIP HOP AND SKATEBOARDING (1987-1997)
監督・製作:ジェレミー・エルキン
ナレーション:イーライ・モーガン・ゲスナー
音楽:ラージ・プロフェッサー


だらーっと観ようと思ってたのに、綺羅星のごとくスター誕生してくるし、「あいつのラップを聴きながら顔を見合わせた」「10年に一度のヤバい曲だと思った」的な煽りを入れてくるので、いちいち「だれ!?なに!?」となり、脳がバッキバキになった。

Jay-ZもBustaもMethod Manもラップうめー!


スケートとヒップホップ、白と黒、東と西、コミュニティの趨勢が貴重な映像と共にわかりやすく整理されていて、とても興味深かった。

クラブ・マーズの話がとにかくおもしろくて!立ち上げたユウキ・ワタナベの構想や、ヴィン・ディーゼルベン・スティラーがバウンサーをやっていたというエピソード、「モデルはカネを落としてくれる ジャンキーはおもしろい」と客を「ミックス」していたドアマンの話などー。ただでさえブレイク前夜の現場の話はジャンル問わずおもしろいのに、それがスケートとヒップホップの交差点の話なのだからもう!!!

ただ、四半世紀以上このカルチャーを好きだけど完全に部外者の自分は、愛憎入り混じった複雑な思いを改めて感じた。貧富や人種をミックスして爆発したこのカルチャーは、この時期ジェンダーのミックスには至らず、女性の影は驚くほど薄い。Monnie LoveやQueen Latifahへの言及はあったものの、字幕ではカット。*1
また、スケートもヒップホップも「度胸試し」的な要素が評価されるなど、この時期どうしても不可分な”Toxic Masculinity”的ヤダ味を感じざるを得なかった。(『mid 90s』を思い出したりした。)

カルチャーによる熱気やうねりが、あの頃のNYが、ギャングやジェントリフィケーションや資本主義に呑みこまれていく様子にはもちろん、昔無邪気にこのカルチャーを消費していた自分はもう戻ってこないんだなぁという点でも、郷愁を感じたりした。こんな気持ちをエドガー・ライト『ラストナイト・イン・ソーホー』で昇華したんだろうか。



★★★★

*1:そんな中でも異ジャンルから界隈に絡んでいるMadonnaBjörkのさすがさよ…

NOPE/ノープ


最悪の奇跡が起こる。

監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール
撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
視覚効果スーパーバイザー:ギョーム・ロシェロン
編集:ニコラス・モンスール
プロダクションデザイナー:ルース・デ・ヨンク
衣装デザイン:アレックス・ボーヴェアード
音楽:マイケル・エイブル


『サイン』ガチ勢のわたしとしては、快哉を叫ぶしかない!サイコゥ!サイコゥ!サイコゥ!前2作で称賛された批評性やアート性を極力抑えて、こんなケレン味たっぷりの超娯楽大作へと飛躍させてくるなんて……!さすがコメディアンだけあって、自らの前作をフリにしている感すらあるし、「スペクタクル依存」を描いたというこの映画にまんまと狂喜乱舞している観客というアイロニーも計算ずくな気がする。


ジョーダン・ピールらしい各地に散りばめられたモチーフはいくらでも読み解き可能だと思うし、画としての強度もすばらしい。(ホイテ・ヴァン・ホイテマーーー!)白馬に乗った黒人→黒馬に乗った黒人→白人が乗ってきたバイクで疾走する黒人、という流れの見事さなど挙げ出したらきりがない。

映画史への視線や、消費される対象(マイノリティ、動物、UAPまで)にまつわる搾取の連鎖、反転あるいは逆襲、という意味合いも強く感じられる。


その中で個人的に一番強く響いたのは「恐怖に立ち向かうにはどうすればいいのか?」というシンプルなテーマだった。そしてそれが「見る/撮る」ことだということ。前2作で被差別の恐怖を描いてきたジョーダン・ピール監督が、3作目にしてそれに「撮る」ことで立ち向かうと決意表明しているようで、胸が熱くなった。

キャラクターの配置も良かった。
冒頭のOJはいわゆる「映画における黒人」像とはかけ離れた寡黙なキャラクターで、他人と目を合わせることがない。その彼が「見る」という行為に一番敏感だし、並はずれた覚悟を持って彼が「見る」時こそがクライマックスになるというのがまた……!
ティーヴン・ユァンの存在感も完璧。克服できそうだった恐怖をずっと引きずっているジュープは、ショーに貶めることで恐怖を飼い馴らそうとしているように見える。ジュープ(イエロー)とゴーディ(モンキー)は見世物としての侮蔑やフラストレーションを心の奥底では共有していたようにも見えるし、「ある時を境に空っぽになってしまった」感が『バーニング』を踏まえているようで最高。


少し薄味だけど、父親やカウボーイ的な価値観から疎外されてきた娘が偉業をカマす(そしてまたその偉業が盗まれそうになるかもしれないが、彼女ならそれに立ち向かうであろう)ラストで〆ているところもぬかりない。

あと、地球を救うような大きな話がとても個人的な選択の話に集束する物語が大好きなので、兄ちゃんが妹の目を見ながら"JEAN JACKET"*1命名する瞬間、ブチ上がった!!!そうこなくっちゃな!

★★★★

*1:またヤツの造形が使徒だしアート性ここに振ったのかよ!と思ったしやたらもったいぶって開口していくので、めちゃくちゃ笑ってしまった

わたしは最悪。


人生は選択ー時々、運命。
"最悪"な本音が"最高"の共感を呼び世界が絶賛!
新時代を生きるすべての人に贈る、恋と成長の物語。

原題:THE WORST PERSON IN THE WORLD
監督・脚本:ヨアキム・トリアー
脚本:エスキル・フォクト
撮影:キャスパー・タクセン
編集:オリビエ・ブッゲ・クエット
美術:ローゲル・ローセンベリ
衣装:エレン・ダーリ・イステヘーデ
音楽:オーラ・フロッタム


つまり最高。タイトルが示すとおりに一面では語れない人間讃歌。自分/誰かが最悪だと思った人間も、自分/他の誰かにとって最高たり得る。ほぼ前情報なく観たのだけれど、監督はLvTの甥なのかー!

『僕の狂ったフェミ彼女』という小説に、彼氏が「正直さ、考えると怖くならない?将来、旦那も子どももいなかったら寂しいんじゃないの?」と問い、彼女が「その代わり、私がいるはず。」と答えるシーンがあるのだけれど、"That's it!"な映画だった。


「私の人生なのに傍観者で脇役しか演じられない」わたしがやらかしながらも人生をつかんでいく様子は、『フランシス・ハ』や『セレステ∞ジェシー』を思い出したりも。


こういう映画は主人公の魅力、主人公を好きになれるかが作品のそれに直結すると思うのだけれど、ユリヤ…好きになっちゃったのよね……。「わたしはあなたの魅力わかってるよーーー!」とスクリーンの外から何度も声をかけてあげたくなってしまった。結婚も出産もしてしまったわたしだけれど、メンタルはおそろしいほど変わらない。書店で働いていたこともあるし、家に帰りたくない時もあるし、いまだに人生の迷子。そんなわけで、ユリヤの身勝手さの描かれ方の豊かさに本当にぐっときてしまったし、自分もがんばろうという気持ちになりました。

あと、その服どこで買ったのか教えてくれんか?ってなるほどファッションがツボでした。


だいじなできごとは準備も心構えも間に合わずに過ぎてしまうもの、という事象も各登場人物を通してくり返し描かれていた。観終わった後、その時!ジャスト欲しいもの!が来る、という幻想と折り合いをつけて、でも自分をあきらめず現実をやっていく、という話を最初からずっとしていたんだな、と思いました。

ヨアキム・トリアー監督はインタビューでも「個人としての意識を、自分がいる集団とどう擦り合わせていくか」「夢と現実に折り合いをつける」「“時間と存在”は、まったく別のもの」など心をぶっ刺すパンチラインを量産。「プレッシャーで行き詰まった都会っ子たちの物語」を描きつづけている監督のようなので、過去作も観てみたいし、次作も楽しみです。

ginzamag.com

soen.tokyo


★★★★

リコリス・ピザ


この出会いは運命

原題:LICORICE PIZZA
監督・脚本・撮影:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:マイケル・バウマン
編集:アンディ・ユルゲンセン
衣装デザイナー:マーク・ブリッジス
美術:フローレンシア・マーティン
音楽:ジョニー・グリーンウッド


PTA新作を観られる喜び~~~!しかもタイトルはレコード・ショップ・チェーンの名前(アナログ・レコードのスラング)!腕まくりで初日に行ってきました。

PTAってふしぎな監督だ。『TWBB』や『ザ・マスター』『ファントム・スレッド』など息苦しいほど濃密な空気の映画を撮るかと思えば、こんなに軽やかでスカスカな(よく言えば風通しの良い)、多幸感にあふれた作品も見せてくれる。『パンチドランク・ラブ』、『インヒアレント・ヴァイス』の系譜に『ブギーナイツ』のエッセンスがかかった感じ。『OUATIH』や『あの頃ペニー・レインと』を思い出したりも。
しかも今作は恩師の娘(しかも一家総出)と盟友の息子主演で、舞台・地元(サンフェルナンド・バレー)、友だち(ゲイリー・ゴーツマン)の話……とかつてないほどのプライベート感!いったい何を見せられてるんだ?と微苦笑してしまうような愛らしさが詰まっていて、終始ホンワカパッパしてしまった。とにかく主演二人の顔~~~良い~~~。

とくにずっと見ていられるアラナ・ハイムすごい。PTAが「ウォーキングの天才」と称するように要所要所でかましているウォーキングが最高。姿勢悪いのにこの魅力はなんなんだろ?と鑑賞中にぼんやり考え込んでしまうくらいだった。そういう観方ができてしまうくらいすき間が豊かな映画だなと思った。

しかし、こうして並べてみると、実はPTA作品ってしょうもないひとたちのちょっとメロドラマ的ですらある益体もない話ばかりなんだけど、どうしてそれがこんなにも胸を打つんでしょうね?この作品も「目をそらしたり、回り道やすれ違い(携帯がない世界!)もしたけれど……やっぱり彼/彼女がすきーーーッ!」というやれやれ着地にも関わらず、ものすごい清涼感と多幸感があった。全編にわたって目から伝わってくるLAの気候もあいまって、脳内がサーッと除湿されたようでした。サントラ絶対に買う!


www.banger.jp

小ネタおもしろい~


★★★★

トップガン マーヴェリック


誇りをかけて、飛ぶ。

原題:TOP GUN MAVERICK
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本・プロデューサー:クリストファー・マッカリー
脚本:アーレン・クルーガー
撮影監督:クラウディオ・ミランダ
編集:エディ・ハミルトン
プロダクションデザイン:ジェレミー・ヒンデル
衣装:マーリーン・スチュワート
原案:ピーター・クレイグ、ジャスティン・マークス
音楽:ハロルド・フォルターメイヤー、ハンス・ジマー
主題歌:レディー・ガガ


ここ15年くらいわたしの心の中の「亡くなったら一番悲しい俳優」はずっとトム・クルーズなので、IMAXでこんなん観せられたらさ……。トムの生きざまに全力でぶん殴られて泣きました。

まずは、1986年の『トップガン』を復習したのですが、これも相当感慨深かった。「あぁ…この時代ってこれが『イケてる』だったんだな…」とすさまじい郷愁が。その中でもビッカビカに色褪せないトムの魅力!とくにルッキズム全盛の時代に、170cmというアメリカ人にしてはかなり恵まれない身長で、ここまでスター/ヒーローを体現できるのは改めてすごいと感じた。

たかだか約35年で激変してしまった「イケてる男」像にトムとトップガンがどう挑むのか…と思っていたら、思った以上のストレート豪速球でトムそのもので勝負してきてて、制作陣の自信と信頼にまた泣いた。

マーヴェリック(=トム)は問題の有る無しで言ったらめちゃくちゃ問題あると思うし、自分の好みとも違うタイプの人間なんだけど、その溢れんばかりの才能と実力とスター性、ゆるぎない信念に向かっての狂気的な努力、ここでしか生きられないという切実さが、モブ(=わたし)を黙らせ深く感動させる。ただ彼のミッションの奇跡を心から祈るしかなくなる。もうトム自身が奇跡すぎて、神々しいまでの映画的説得力がある。

クリード』型の継承そしてバディへ…という展開、「戦闘機」「トム」「ハリウッド映画」が三位一体となったメタファーはもう胸熱すぎて……。続編としても完璧で、細かなアップデートに感心しつつ、丁寧すぎるオマージュには笑ってしまった。*1

久しぶりに感じた原始的で圧倒的な昂揚感!若い世代がどう感じるのか気になるけど、「ハリウッド魂は死せず!」"Not Today!"*2という心意気を感じました。とにかくもう一度観たい!


★★★★★

*1:裸ビーチとかおじになってもずっと怒られてるトムとかはさwww

*2:LOTR』といい『バトルシップ』といい、このせりふ映画映えしすぎるよな……

ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス


禁断の世界<マルチバース>が、開かれる

原題:DOCTOR STRANGE IN THE MULTIVERSE OF MADNESS
監督:サム・ライミ
製作:ケビン・ファイギ
脚本:マイケル・ウォルドロン
撮影:ジョン・マシソン
編集:ボブ・ムラウスキー、ティア・ノーラン
美術:チャールズ・ウッド
衣装:グレアム・チャーチヤード
音楽:ダニー・エルフマン


サム・ライミも魔術も大好きなので、ダークなファンタジアみたいな映像は楽しかった……けどストーリーは無理すぎて、正直ずっとワンダ勝て!こんな世界は滅びろ!と思いながら観てしまった。That Doesn’t Seem Fair.

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